「羊はいらない」これは、株式会社ライオンハートの創業者・市川厚が社内でよく口にしてきた言葉です。特に人事を担当する常務との会話の中で、何度も使ってきました。いつの間にか、僕らの間では共通言語のようになっていました。
この言葉を聞いて、ドキッとした人もいると思います。それでいいんです。そういう気持ちを込めて、使ってきた言葉だから。
「羊」って、どういう人のことか
おとなしい人のことじゃありません。悪い人のことでもない。
一言で言うと、言われないと動かない、言われないと気づかない人のことだと思っています。
自分から情報を取りにいかない。変化に自分で気づかない。マーケティングの言葉を借りれば、イノベーターでもアーリーアダプターでもなく、とにかく腰が重い。あらゆる判断と行動が、ワンテンポ、ツーテンポ遅れます。
一人ならまだいい。でも組織は、共通した目的を持った人間の集団です。一人の遅さは、周りに伝染していきます。
世界で1000万人以上が読んだビジネス書『ザ・ゴール』にボトルネックという概念が出てきます。工場の生産工程を舞台にした話ですが、僕らの仕事も似ています。営業、ディレクター、デザイナー、エンジニアと分業で動いている。どこかの工程で遅れが生じると、後ろの工程にも必ず遅れが波及します。遅いところに、全体が引っ張られていく。どんなに速く走れる人がいても、組織である以上は合わせていかざるを得ません。
これが経営者として、本当に辛いんです。
怒りというより、伝わらない悲しさがあります。そして焦りもある。船は急には曲がれない。だから早い段階から指示を出し続けていますが、動きが遅い。タイタニックが氷山に向かってゆっくり進んでいくような、そんな光景が頭をよぎります。
のんびり草を食べている羊たちが、危機が迫っていることにも気づかないまま、メェ〜ッとしている。そのイメージが、重なって見えてしまいます。
「自発的」と「主体的」は、全然違う
「自発的に動ける人が欲しい」という会社は多いです。うちも昔はそう言っていました。でも今は言い方を変えました。うちが欲しいのは「主体的に動ける人」です。この二つ、似ているようで全然違います。
自発的な人は、タスクが終わったら「次、何したらいいですか?」と聞いてきます。動く意欲はある。でも起点は、いつも誰かの指示です。これは仕事だけの話じゃない。「次、何を聞いたらいいですか?」「次、どう進めたらいいですか?」全部同じ構造だと思っています。目的から逆算できていないから、次が見えない。
主体的な人は違います。話していると、前のめりになっている。話の途中からもう提案が出てきます。「この場合はどうでしょう?」「だったらこんなこともできますよね」「こうしたら面白いかもしれません」。一を聞いて十を知る、そういうタイプです。話していて楽しい。こちらまで前向きになれます。
さらに言うと、主体性の高い人は質問リストそのものを作ることを楽しめます。お客様のことを知れば知るほど、興味関心が湧いてくる。感情移入ができます。
僕らの仕事は、お客様が「何をしたいか」を引き出すところから始まります。お客様自身も、自分の課題を言語化できていないことが多いです。だからヒアリングを通じて課題を抽出して、ソリューションを提案するのが僕らの仕事です。
自発止まりの人がお客様の打ち合わせに入ると、一問一答になります。「ビジョンは何ですか」「理念は何ですか」「なぜ設立したのですか」と、質問リストを順番に消化していく。答えが返ってきても、そこから掘り下げない。お客様の感情を、ポジティブなものもネガティブなものも、引き出すことができない。共感できないから距離も縮まらない。結果、アウトプットのクオリティに直結してきます。
主体的な人は違います。答えの中から相手の原体験やパーソナリティを読み取って、次の質問を自分で生み出していきます。会話が有機的につながっていく。お客様の魅力をどんどん引き出せます。
そして、主体性は特別な才能じゃないと思っています。
ディズニーランドに行く時のことを考えてほしいんです。誰も「楽しませてもらおう」とは思っていないはずです。ミッキーの耳を買って、自分から楽しみの中に飛び込んでいく。真剣に、主体的に関わっています。みんな日常の中で、すでに主体性を発揮している場面があります。
主体的に関わると楽しい。楽しいから、また主体的に関わりたくなります。その成功体験の積み重ねが、主体的に動ける人をつくっていくんだと思っています。
仕事も同じです。真剣に関わるから、楽しくなる。楽しいから、もっと深く関わりたくなる。「次何をしたらいいか分からない」という人は、まだその入口に立っていないだけかもしれません。
正直に言う。憤りから出てきた言葉です
「羊はいらない」という言葉は、きれいなビジョンから生まれたわけじゃありません。正直に言うと、スタートは絶望でした。
変化を自分で起こせる人が、自分以外にいない。そう感じる場面が何度もありました。待っていても、期待していても、何も変わらない。なぜ伝わらないんだろうと、途方に暮れることもありました。人に期待することをやめた、という感覚に近いかもしれません。
でもそれは諦めじゃありません。結局、自分が先導するしかないんだという、静かな覚悟でした。
気づいたことは、ずっと言い続けるしかない。AIの活用も、自社のフレームワークの活用も、お客様の要件定義の重要性も、何度も何度も伝え続けてきました。うるさいと思われても、言い続けるしかない。それが経営者の役割なんだと、改めて気づきました。
大きな組織なら、先導する役割を担う人が何人か出てきます。でも中小企業ではそうじゃありません。ある程度できる人がいたとしても、その人が主体性高く他の人たちに影響を与えて、巻き込んで、新しい挑戦へと先導していけるかというと、そうではない場合がほとんどだと思います。
だからこそ、その役割を自ら担える人が必要です。経営者だけが先導する組織には、限界があります。事業家気質を持った人が、組織のあちこちに必要なんです。
これが「羊はいらない」という言葉が生まれた、本当の理由です。
常識を疑うことは、大げさなことじゃありません
僕自身の話をすると、家業が陶芸家でした。
子供にとって粘土細工は楽しい遊びだと思います。工場に入って土をこねる。楽しい。その楽しいことが仕事でした。父親が仕事の愚痴を言っているのを聞いたことがありません。だから「仕事とは楽しいものだ」という感覚が、自然に自分の中に根付いたんだと思っています。
サラリーマンの父親を持つ家庭が「普通」だとすれば、僕の日常は最初から普通の外側にありました。子供の頃、テレビドラマでスーツを着て出かけるシーンを見て、親に「この人たちはどこに行くの?」と聞いたくらいです。「常識を守らないといけない」「人にどう思われるか」という感覚が、最初から薄かった。それが今の自分の土台になっていると思っています。
ただ、誤解してほしくないんですが、常識を全部疑えと言いたいわけじゃありません。約束を守る、人として誠実であるといった根本的なことは、ビジネス以前に人間として当然のことです。
僕が言いたいのは「時代の常識」の話です。
子供の頃、漫画を読むと頭が悪くなると言われていました。ゲームをするより勉強しろと言われていました。でも今はどうか。漫画は世界中でコンテンツIPとして莫大な価値を生んでいます。ゲームは世界大会が開かれ、ゲーム配信を仕事にしている人たちもいます。
そしてその「勉強しろ」と言われて身につけた知識やスキルすら、AIの登場によって無価値になりつつあります。高度な計算、プログラミング、専門性の壁。自分が長年積み重ねてきたスキルセットが、あっという間に陳腐化していく。今2026年に子供たちに教えている内容が、彼らが社会に出る頃には無価値になっている可能性すらあると思っています。
四半世紀どころか、もはや数年で常識は変わります。だからこそ、自分自身の行動や常識を常にアップデートし続けることが重要だと思っています。変化に乗り遅れるリスクは、常識に縛られすぎることから生まれます。
そして常識をアップデートすることは、何も大げさなことじゃありません。
毎日同じ通勤路を、ちょっと変えてみる。それだけでいいんです。新しい店ができていることに気づく。桜が綺麗なことに気づく。普段と違う行動を取れば、普段と違う結果が必ず出ます。
初めてのことは不安です。でも得られるものが大きい。小さな成功体験が積み重なると、挑戦のハードルがどんどん下がっていきます。やがて挑戦することが「普通の状態」になっていきます。
僕自身、常識をアップデートするために意図して初めてのことをやり続けています。実はこの記事もそのひとつです。昔なら自分でキーボードを叩いて原稿を書いていました。でも今回はAIと壁打ちをしながら作っています。初めての試みです。やってみると、自分の頭の中が整理されて、思ってもみなかった言葉が出てきます。
挑戦の先には、成功か成長しかありません。それは自分自身に対しても、同じことだと思っています。
大きなうねりは、もう来ています
ここ1〜2年、社内でずっと叫び続けてきました。「AIを使え」と。
最初に反応したのは、一定数のアーリーアダプター的な人たちでした。でも動かない人たちの方がずっと多かった。だからある月曜の朝礼、自分の当番が回ってきた時に、スライドを使って伝えました。AIの時代に何が起きているか。自分自身がどう使っているか。そして「人間がやってはいけない仕事を探せ」という言葉をスライドに入れました。
その日の日報には、朝礼の内容を書いてくれたスタッフが多かったです。言葉は届きました。一定レベルでは。
でもある時、怖くなりました。もし自分がこれを言い続けていなかったら、今も誰もAIを使っていなかったんじゃないかと。では自分がいなかったら、一体誰がこれを言えたんだろうと。その問いが、頭から離れませんでした。
大きなうねりは、もう来ています。気づいている人と、気づいていない人がいます。「次は何をすればいいですか?」と聞いてくる人と、一緒に走ることはできません。時代の大きな流れに気づかないまま、取り残されていく。それが正直な危機感です。だからこそ、主体的に動ける人が必要なんです。
AIについての話は、また別の機会に詳しく書くつもりです。
だから「事業家気質」が必要なんです
僕らが求める「事業家気質」は、特別な才能じゃないと思っています。
目的を理解して、自分で考えて、先回りして動ける人。変化を自分ごととして捉えて、行動できる人。常識をアップデートし続けながら、時代の大きな流れの中でも高みを目指して走れる人です。
考えて、検討して、また考えて。それだけでは何も変わりません。行動した回数だけ、人は成長できます。失敗した回数だけ、前に進める。AIの時代はむしろそれがやりやすくなったと思っています。デザインも、文章も、アイデアの検証も、一瞬でやり直せます。失敗のコストが下がった分、行動の回数を増やせます。これはAI以前も以後も、本質は同じです。
僕自身は自分のことをイノベーターだと思っている。ゼロからイチを作るのが得意です。そのイチを十にしていく仲間が必要なんです。僕が持ってきたもの、作ったものを、一緒に楽しんでくれるアーリーアダプターに来てほしいんです。
ちなみに人事担当の常務曰く、「イノベーターの亜種も大歓迎!イノベーターとアーリーアダプターの合いの子も大歓迎!」とのことです。どちらかに完全に当てはまらなくても、その気質を持っている人なら、ぜひ話を聞かせてほしいです。
大きなうねりの中にいます。でもその中で、一緒に高みを目指せる人と働きたい。
それが、ライオンハートという会社の、創業者としての正直なメッセージです。