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2026.08.29

"Sales isn't about selling"—What 'The Concept Textbook' taught me about creating proposals that get chosen.

「営業とは、売ることではない」——『コンセプトの教科書』が教えてくれた、選ばれる提案のつくりかた

数年前、ある本を読みました。細田高広さんの著書『コンセプトの教科書 あたらしい価値のつくりかた』です。コピーライターとして数々のヒット商品やサービスの「コンセプト」を手がけてきた方が、その方法論を一冊にまとめた本です。読みながら、私は何度も自分の営業経験と照らし合わせていました。コンセプトという言葉は、てっきり商品開発やクリエイティブの世界だけのものだと思っていたのですが、読み進めるうちに、これはそのまま営業の現場にも当てはまる話だと気づいたのです。

この記事では、その本から受け取った気づきを入口にしながら、私自身が営業として大切にしてきた考え方と重ね合わせて、「選ばれる提案とは何か」についてお話ししたいと思います。

「コンセプト」とは、判断基準であり、対価の理由である

設計図を描く手のイラスト、コンセプトを価値の設計図にたとえる図解

『コンセプトの教科書』では、コンセプトを「価値の設計図」だと説明しています。良いコンセプトが果たす役割は主に三つあり、判断基準になること、一貫性を与えること、そして対価の理由になることだと述べられています。さらに、機能するコンセプトの条件として、顧客目線であること、その会社ならではの発想であること、スケールが見込めること、そしてシンプルであることの四つが挙げられていました。

私はこれを読んで、営業提案書もまったく同じ構造を持っていると思いました。機能や価格を並べただけの提案書には、判断基準がありません。お客様は「結局、何を基準に選べばいいのか」を見失ってしまいます。逆に、一貫したコンセプトのある提案には芯があります。話がぶれず、なぜこの金額なのかという理由まで、自然と腑に落ちていく。これは、経営者や営業責任者の方が日々の提案の中で無意識に感じ取っている、「なんとなく響かない提案」と「思わず膝を打つ提案」の分かれ目そのものだと、私は感じています。

BtoBの競合差別化に悩む経営者の方によくお話しするのですが、差別化とは「他社と違うこと」を並べる作業ではありません。その違いが、お客様にとっての価値としてまっすぐ伝わって初めて、差別化になります。コンセプトのない差別化は、ただの比較表で終わってしまうのです。実際、私がこれまで見てきた失注の多くは、機能や実績で負けていたわけではありませんでした。「結局、何を大事にしている会社なのか」が最後まで伝わらなかったケースがほとんどです。

営業とは、売ることではない

実は、私はもともとコピーライターを志していました。言葉で人の心を動かしたいという思いがあり、新卒で入社した広告関係の会社ではコピーライターを志望していました。今はライオンハートで経営者兼営業という仕事をしています。京都で生まれ育ち、実家がお寺という環境にいたせいか、私は昔から、人が本音とは違う言葉を選ぶ瞬間に妙に敏感でした。「前向きに検討します」の温度感を聞き分けるのは、案外、法事の場で身につけた特技かもしれません。営業に転じてから、そんな観察癖も生かしながら、自分なりに営業を定義し直したことがあります。営業とは、売ることではない。まだ言葉になっていない可能性を見つけ、お客様と未来を描き、その一歩を踏み出してもらうこと。もう少し踏み込んで言うなら、お客様の未来に火を灯す仕事だと思っています。

目の前の課題を聞いて、サービスを提案するだけでは足りません。その会社の歴史、強み、これまでの葛藤、経営者ご自身の想いまで深く理解して、「御社には、こんな未来がある」と、本人たちもまだ言葉にできていなかった可能性を示す。だから私にとって、営業のゴールは受注そのものではありません。「この人たちとなら、会社を変えられる」と期待していただくことが、本当のゴールだと考えています。

これは、決まった商品を売り込むのではなく、お客様の困りごとを客観的な視点で見つけて解決していく仕事です。ですから私は、営業は売るのではなく、買っていただくものだという価値観を大切にしてきました。『コンセプトの教科書』でいう「顧客目線であること」と、これはきっと同じことを指しています。自社の都合で押し込む提案には、コンセプトは宿らないのだと思います。

AIが提案書をつくる時代に、なぜ「誠実さ」が選ばれる理由になるのか

AIによる冷たい画面と、温かい握手を対比させたイラスト

ここで少し、最近の調査データにも触れておきたいと思います。2026年6月に株式会社IDEATECHが発表した調査(BtoBの購買検討担当者105名対象)によると、導入担当者の約8割が、発注先候補の企業サイトを「どこも一般論ばかりだ」と感じており、最終的に問い合わせを決断した理由として「メリットだけでなくデメリットやリスクも公開しており、誠実だと感じたから」を挙げた人が57.1%で最多だったそうです。また、株式会社ファネルAiが2026年2月に行った調査(BtoB営業担当者103名対象)では、7割以上が業務に生成AIを活用している一方で、実に81.1%が「AIを使っても売上や受注の成果は変わらなかった」と回答しています。

この二つのデータを重ねると、見えてくることがあります。生成AIによって、誰でもそれらしい提案書や比較資料をつくれる時代になりました。だからこそ、「一般論」はすぐに見抜かれてしまいます。情報の量や体裁で差がつかない時代に、最後にお客様の心を動かすのは、やはり人の誠実さと、その提案の背骨にあるコンセプトなのだと思うのです。

先ほどのファネルAiの調査を詳しく見ると、AIは議事録の作成や提案資料のドラフトといった「作業」には広く使われている一方で、失注案件の掘り起こしや商談の優先順位づけといった「判断」の領域では、まだほとんど活用が進んでいないことがわかります。これは私の実感とも重なります。AIは提案書の体裁を整えることはできても、「この会社に、今、何を届けるべきか」という判断そのものは、まだ人間の仕事として残っている。だとすれば、営業に求められる価値は今後、資料をつくる速さではなく、その判断の芯にあるコンセプトを描けるかどうかに、ますます寄っていくのだと思います。

コンセプトのある提案は、お客様の未来に火を灯す

私が営業をしていて、最も嬉しかった瞬間は、お客様から「これまでで一番大事なプロジェクトを任せたい」と言っていただけたときでした。逆に、最も苦い経験は、自分本位な提案をしてしまい、まったく響かなかったときです。この二つの体験から、私は三つのスタンスにたどり着きました。徹底して寄り添うこと、考え抜くこと、そしてやり抜くことです。振り返ってみると、この三つは、まさにコンセプトを支える骨組みでもあります。寄り添うことは顧客目線を、考え抜くことはその会社ならではの発想を、やり抜くことは一貫性を、それぞれ支えているのだと思います。

提案の場で私が意識しているのは、資料の見栄えよりも、この提案の背骨に何があるかということです。なぜこの会社なのか、なぜこのタイミングなのか、なぜこの金額なのか。その問いに、澱みなく、しかも誠実に答えられる提案だけが、お客様の未来にそっと火を灯せるのだと思っています。

summary

『コンセプトの教科書』を読んで改めて思ったのは、良いコンセプトも、良い営業も、結局は同じ場所から生まれるということです。お客様のことを深く見つめ、飾らずに、一貫した軸を持って向き合う。それだけのことなのに、実践するのはとても難しい。だからこそ、これができている会社や人には、自然と人が集まってくるのだと思います。もし今、提案や差別化に行き詰まりを感じている経営者の方がいらっしゃったら、一度、資料の中身ではなく、その提案の背骨にあるコンセプトそのものを見直してみてはいかがでしょうか。ちなみに私は、この手の話を人とあれこれ話しながら考えるのが好きな性分です。もし同じようなことで頭を悩ませている方がいれば、一度雑談がてらお話ししてみたいと思っています。

Reference/quote source
細田高広『コンセプトの教科書 あたらしい価値のつくりかた』(ダイヤモンド社)
株式会社IDEATECH「AI時代のBtoB購買『情報接触』実態」調査
ファネルAi「BtoB営業 × AI活用 実態調査 2026」

Isao Nagasawa, President and CEO, Lionheart Co., Ltd.

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