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2026.07.13

Why did the massive redevelopment project stall while the "neighboring town" continued to move forward? — A story about "proactiveness" that works for business management.

名古屋駅前の景色が、この先どう変わっていくのか。名古屋を拠点にビジネスをしている経営者や幹部の方であれば、少なからず気にかけていたはずです。名鉄名古屋駅一帯の大規模再開発が「事実上の白紙化」というニュースが流れたのは2025年末のことでした。当初は2033年度の一期完成を目指していた、総事業費5,400億円規模ともいわれるこの「中部の玄関口」の大改造は、建築コストの高騰と人手不足を理由に、解体着工を含むスケジュールが宙に浮いたままになっています。

私はこのニュースを、単なる不動産や都市計画の話として読みませんでした。むしろ、経営そのものの縮図として受け止めています。というのも、名古屋駅から南へ徒歩10分ほどの「名駅南」エリアに目を向けると、こちらは巨大な旗艦プロジェクトが牽引しているわけではないのに、タワーマンション、ホテル、輸入車の旗艦店、道路整備といった動きが次々と積み重なり、着実に街の顔つきを変えているからです。同じ名古屋駅の徒歩圏内で、片方は止まり、片方は動き続けている。この対比の中に、経営者が持つべき視点のヒントがあると考えています。

なぜ「壮大な計画」ほど止まりやすいのか

建築費の高騰と人手不足は「建設業の2026年問題」とも呼ばれ、全国各地で同時多発的に再開発の延期・凍結を引き起こしています。名鉄名古屋駅前の巨大プロジェクトだけでなく、新宿・渋谷・中野でも「100年に一度」といわれた再開発が続々と延期されているのは、その象徴的な現れです。市街地再開発事業を対象にした調査では、補助金がついた事業のおよそ7割弱で当初予算からの積み増しが発生し、約3割では国と自治体の補助金に加えて事業者が床の一部を買い取るという、いわば「公的資金の二重投入」まで行われているという指摘もあります。

もうひとつ、頓挫した再開発事例を見ていくと共通して浮かび上がってくるのが、「誰が主体的にリスクを負っているか」が曖昧になっているという点です。ある地方都市の再開発破綻事例では、地権者や組合の役員が事業を「デベロッパー任せ」にしてしまい、当事者意識が失われていたことが、後々の損失補填という形で跳ね返ってきたケースも報告されています。壮大な計画であればあるほど関係者が増え、意思決定の主語が「誰か」から「みんな」へと薄まっていく。これは規模の大小を問わず、企業経営にも通じる話だと私は捉えています。大きなビジョンを掲げること自体は否定しませんが、それを実行する主体が明確でなければ、計画は思いのほか簡単に止まってしまうのです。

実際に現地を歩くと、その”止まった時間”が視覚的にも表れています。工事自体は延期されたものの、名鉄百貨店をはじめとする商業施設は予定どおり一部を除いて閉店し、看板は青いシートで覆われたまま。解体も着工もされない建物が、行き先の決まらない看板を隠したまま立ち尽くしている光景は、計画の規模と実行力が伴っていないことの、ある種の象徴のように見えました。

しかし、ここで話は終わりません。まさに直近の2026年7月、この「止まった時間」を無理やり動かすような驚きのニュースが飛び込んできました。名鉄側がこの空きビルに、名駅エリア初となる「ヨドバシカメラ」を2026年夏に急遽誘致・出店させることを発表したのです。

いつ本格始動できるか分からない5,400億円の巨大再開発をただ座して待つのではなく、「今ある資産で、今日できる最大の一手を打つ」という方向へ、名鉄自身が舵を切った。凍りついていた駅前の風景に、民間の力で強引に風穴を開けにいったこの決定こそ、まさに「走りながら考える」という主体性の発揮そのものではないでしょうか。

「号令」を待たなかったエリアが、なぜ前に進んだのか

一方の名駅南エリアは、行政主導の一大プロジェクトが牽引したわけではありません。戦後は物流関連施設が中心の、いわば「通過点」の街でした。それが2000年代以降にオフィスや学校、住居の立地が進み、令和に入ってからは次のような変化が積み重なっています。

  • 2023年、地上42階建て・最上階4億円のタワーマンション「NAGOYA THE TOWER」が竣工
  • 東横INN、ダイワロイネットホテルなど、複数のホテルチェーンが相次いで開業
  • 2026年3月、ポルシェ正規販売店として国内最大級の店舗がオープン
  • 市道の拡張整備が進み、隣接する「ささしまライブ24」地区との回遊性が向上

いずれも、誰かの大号令を待って動いたわけではありません。各企業が自らの市場判断で意思決定し、実行した結果です。名古屋市が「名駅南まちづくり方針」という指針を掲げてはいますが、これはあくまで一つひとつの民間投資が積み重なりやすい”土壌”を整えているに過ぎず、実際に街を動かしているのは無数の個別の意思決定だと私は見ています。

大きな計画ほど、ボトルネックに気づきにくい

組織論に「ザ・ゴール」という有名な考え方があります。全体の生産性は、最も制約になっている工程、いわゆるボトルネックによって決まる、という理論です。大規模再開発でいえば、資材調達、合意形成、補助金の申請プロセスなど、どこか一箇所が詰まれば計画全体が止まってしまいます。関係者が多いプロジェクトほど、そのボトルネックがどこにあるのかすら見えにくくなるのは当然のことです。

私が経営で意識しているのは、計画の規模を大きくする前に、まず「誰が、今日、何を動かせるか」を明確にすることです。壮大なビジョンを掲げることと、それを動かす主体を明確にすることは、本来セットであるべきだと考えています。しかし多くの組織では、ビジョンだけが先行し、実行の主語が曖昧なまま時間だけが過ぎていく。これは、名鉄名古屋駅前の再開発が直面している状況と、驚くほど似ているのではないでしょうか。

創業以来20年以上、様々な企業の経営者やキーパーソンとお話しする機会をいただいてきましたが、似た構図には何度も出会ってきました。中期経営計画やブランドスローガンといった「大きな絵」は立派に描かれているのに、実行段階になると「誰が」「いつまでに」「何をやるか」が空欄のまま止まっている、というケースです。絵の壮大さそのものよりも、その絵を今日動かせる主語が誰なのかを、関係者全員が同じ解像度で共有できているかどうかの方が、はるかに成否を分けると私は感じています。

中堅・中小企業が今日からできること

名駅南エリアの変化に学ぶべきは、「完璧な一撃」を待つ必要はないということです。ホテル一軒、マンション一棟、店舗ひとつは、それ単体では「駅前再開発」ほどのインパクトはありません。しかし、それぞれの企業が自社の判断で、自社のタイミングで意思決定を積み重ねた結果、5年、10年という単位で見ると、街の風景を確実に変えました。

中堅・中小企業の経営においても、同じことが言えると私は考えています。大きな中期経営計画や壮大なブランド戦略を掲げることは重要です。ただ、それを実行に移す最初の一歩は、往々にして小さく、地味なものです。「まず動いてみる」「小さく試して、走りながら考える」という姿勢を持つ人材やチームがどれだけ社内にいるかが、結果として数年後の大きな差を生みます。私たちが採用や育成の場面で、正解のない場所で仮説を立て、泥臭く動き、何度でもやり直せる力を重視しているのも、この一点に尽きます。

まとめ:街も組織も、動いた人から変わる

名鉄名古屋駅前の再開発が、いつ、どのような形で動き出すのか。名古屋を拠点にする一経営者として、私自身もその行方を注視しています。ただ、街の未来は一つの巨大プロジェクトだけが決めるものではありません。今回、名駅南エリアの変化を追いながら改めて感じたのは、大きな計画の是非を論じる以前に、”誰が、今日、何を動かすのか”という主体性の総量こそが、街の、そして組織の未来を形づくるということです。

もし自社を振り返ったときに、「大きなビジョンは掲げているが、今日それを動かす主語が誰なのか、すぐには答えられない」と感じたなら、それは決して珍しいことではありません。むしろ、多くの企業が一度は通る停滞のかたちです。大切なのは、その主語をどう見つけ、どう言語化し、どう組織に浸透させていくかだと私は考えています。そうした問いに向き合う経営者の方々と、いつか名古屋のどこかでこの話の続きができたらうれしく思います。