「うちの商品にそっくりなものが、ECモールで半額以下で売られているんです」。名古屋でグローバルブランディングエージェンシーを営む中で、こうした相談を受ける機会もあります。フリマアプリや越境ECの普及で、正規品と見分けがつかないコピー品を誰でも簡単に流通させられる時代になっています。多くの経営者は「模倣品は潰さなければならない」と考え、通報や警告、時には訴訟にまで労力を注ぎます。それ自体は当然必要な防衛策です。ですが私はここ数か月、模倣品と正面から戦うことだけが、ブランドを守るための唯一の方法なのだろうかと考え続けていました。
そのヒントを与えてくれたのが、中国発のキャラクタービジネス「ラブブ(LABUBU)」の事例です。尖った耳に牙が生えた、一見して「これが可愛いのか」と二度見してしまうようなこのモンスターが、世界のブランド戦略における一つの教科書になりつつあります。

ラブブを生み出したのは中国のポップマートという企業です。2025年12月期の売上高は前年比185%増の371億2000万元(約8110億円)、調整後純利益は同284.5%増の130億8000万元(約2858億円)という爆発的な数字を記録しました。2025年第1四半期には成長率165%を記録し、ラブブ単体で年間1億個以上が売れています。店舗は世界100カ国に700以上、自動販売機型の「ロボショップ」も2597台まで拡大しました。
象徴的なのは、Amazonすら存在しないニュージーランド・オークランドの片隅にまで店舗を構えていることです。しかもそこに、日本からの修学旅行生がわざわざ買いに来ている。理由を聞くと「日本の店舗は抽選制で、しかも1時間しか滞在できないから」という答えが返ってきたそうです。世界の隅々で、こうした逆転現象が起きている現場に立ち会うと、時代の転換点を肌で感じます。
ポップマートのビジネスモデルは、サンリオ的な「ライセンス供与」モデルとは対照的です。企画・デザイン・製造・流通・販売のすべてを自社で完結させる垂直統合モデルで、売上の90%が直営チャネル。キャラクターを先に生み出し、ストーリーや映画に頼らず、開封体験とSNS拡散力だけで勝負する「逆ディズニーモデル」とも呼ばれています。
中国は長年「模倣品大国」と言われ、キャラクタービジネスは育たないというのが業界の常識でした。ポップマートの急成長に伴い、その象徴である「ラブブ」の模倣品も現在、世界中で大量に出回っています。
当然、ポップマート側はブランドを守るために現地の警察と協力し、偽物工場の摘発や容赦ない法的措置といった「徹底抗戦」を続けています。しかし興味深いのは、ブランド側が撲滅に奔走する裏で、市場と消費者のコミュニティが独自の進化を遂げた点です。
大ブームが起きている東南アジアなどのSNS上では、ユーザーたちの間でいつしか模倣品を「ラフーフ(Lafufu)」と呼ぶスラングが定着しました。これにより、見た目はそっくりでも、消費者の頭の中には「本物のラブブ」と「偽物のラフーフ」という明確な境界線が引かれることになったのです。
今や若者たちのコミュニティでは、「それラブブ? ラフーフ?」と聞かれた際に、胸を張って「ラブブ(本物)」と答えられるかどうかが、一種のステータスやアイデンティティになっています。
ブランド側が用意したホログラム付きQRコード認証や、開けるまで中身が分からない「ブラインドボックス」という購入体験。これらが、ユーザー自身の「本物を所有したい」という欲求をさらに刺激しています。皮肉なことに、排除しきれない模倣品(ラフーフ)の氾濫が、かえって本物(ラブブ)の圧倒的な希少性とブランド価値を裏付けるエコシステムを作り出しているのです。
ここで誤解してほしくないのですが、「模倣品を放置していい」という話では全くありません。商標登録や法的措置は当然必要な備えで、日本国内だけでも模倣品による経済的損失は年間3兆円規模にのぼるという調査もあります。私が注目したいのはもっと本質的なことです。模倣を防ぐ最強の武器は、法律や技術より前に「ブランドの輪郭がどれだけ明確か」にあるのではないか、ということです。
私たちは日頃、ブランドを「特定の誰かにとって、特別な存在であること」と定義しています。ブランディングとは、その特別さを意図的に、かつ継続的に印象づけ続けるプロセスです。「特定の誰か」が誰なのかが明確でなければ、模倣品との違いを説明する言葉すら持てません。実際に企業のブランディングに携わる際、私たちが最初に行うのは「こうありたい姿」と「今の現在地」のギャップを構造化して可視化する作業です。ギャップの正体が見えて初めて、言語化・視覚化・浸透・出力という一連の施策に一気通貫で落とし込むことができます。
つまり「ブランディングとは何か」を一言で言えば、模倣されないための壁をつくることではなく、模倣されても顧客が本物を選び続けたくなる理由を、一貫した体験として設計し続けることだと私は捉えています。
ラブブの事例に置き換えれば、ポップマートは「ラブブとは何か」を、ブラインドボックスの開封体験、QRコード認証、キャラクターの世界観という複数の接点で一貫して説明し続けたからこそ、消費者の側に「これが本物」という輪郭がくっきり浮かび上がったのだと思います。輪郭がぼやけたブランドは、模倣品が現れた瞬間に顧客の頭の中で埋没してしまいます。
中小・中堅企業の多くは、まだ模倣されるほどの規模には達していないかもしれません。しかし考えてみてください。もし競合がサービス名やデザインのテイストを似せてきたとして、顧客に「どちらが本物か」を即答してもらえるだけの輪郭を、自社のブランドは持っているでしょうか。この問いに即答できないとしたら、それは模倣品対策以前に取り組むべき経営課題だと私は考えています。
興味深いのは、ラブブの動きをきっかけにLVMH(ルイ・ヴィトンやディオールを擁する世界最大のラグジュアリーグループ)がポップマートに接近している点です。2025年12月、LVMH中国部門トップがポップマートの社外取締役に就任しました。同年10月にはLVMH傘下のブランド「モワナ」がラブブのデザイナーとコラボしたコレクションを上海で発売し、ベルナール・アルノー会長自らが会場を訪れています。過去にルイ・ヴィトンが村上隆とのコラボで初年度3億ドル以上を売り上げた前例を踏まえると、「おもちゃ」だったキャラクターが「アート」へと格上げされる可能性を、ラグジュアリー業界自身が見出しているということになります。
模倣品が大量に出回るという状況は、見方を変えれば「それだけ欲しがる人がいる」という強烈な市場シグナルでもあります。ラグジュアリーブランドが長年、偽物との戦いを経営課題として抱えながらもブランド価値を高め続けてきたのは、模倣されないことを目指すのではなく、模倣されてもなお選ばれ続けることに軸足を置いてきたからだと思うのです。
今回の一件で私が最も共感したのは、「ブームは必ず去るが、文化は残る」という視点です。サンリオが50年間、一度も爆発的なブームを起こさず、地味に、しかし確実に文化として定着してきたのとは対照的に、ラブブは短期間で爆発的に成長した反動で株価はピークから40%下落し、一過性のブームで終わった過去の玩具の再来を懸念するアナリストの声もあります。ポップマート自身も2026年の成長目標を「20%以上」という保守的な水準に置き直し、次世代キャラクターの育成に軸足を移し始めました。
一時のブームをつくることと、何十年も愛される文化をつくることは、似ているようでまったく別の技術です。そしてその違いを分けるのは、突き詰めればブランドの輪郭がどれだけ意図的に設計され、どれだけ一貫して守られ続けてきたかだと私は考えています。
模倣品との向き合い方一つをとっても、その企業がブランドをどう捉えているかが如実に表れます。「守る」ことだけに意識を向けるのではなく、「輪郭を際立たせる」という発想を持てているか。自社の中だけでこの問いに向き合おうとすると、どうしても「今まで通り」の答えに落ち着きがちです。だからこそ私たちは、経営者や担当者へのヒアリングを起点に、外部の視点から現在地とギャップを一緒に言語化するところから支援を始めています。もし自社のブランドの輪郭について、一度誰かと話しながら確かめてみたいと感じたなら、そのタイミングでお声がけいただければと思います。
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