近年、「ジェンダーの問題に取り組んでいる」「LGBT採用に前向き」と喧伝する企業が増えてきましたね。
「わざわざ声高に言う必要があるのか?」「もっと本質的なことがあるはず!?」と感じますが、こうした海外発の考え方のトレンドに対して、どうにもカタチから入ってしまうのが日本です。
この流れもあって、上場企業の女性役員を30%以上にするという政府目標が掲げられるようになりましたね。
弊社は3名の役員の内、一名が女性で、すでにその目標は達成しているわけですが、なにも男女という生物学的性差、区別のバランスを考慮して登用しているわけではありません。
人選は資質を含む能力が大前提で、結果として女性役員が誕生していました。
確かに、他2名の男性役員とは違う、視点は得られたかもしれません。
しかし、それは単に性差によるものなのでしょうか?
男として育てられてきた人の価値観と、女として育てられてきた人のそれは違うでしょうが、それは男/女として生活してきた経験の多寡によるものかもしれません。
もちろん、それとて、経営上での視点は増えるわけですが。 一方で、それとは別に、心理的、精神的な部分における「男性らしさ(男性性)」や「女性らしさ(女性性)」の存在に気付かされることがありました。
興味深いことに、「男性性/女性性」という言葉は、ここ最近、弊社の女性役員の妹尾(常務取締役)がよく使うようになった言葉でした。
そこで、今回、単なる性差である男性/女性の話ではない、各人が内面的に持つ「男性性/女性性」について、妹尾から聞いてみることにしました。
そもそも「男性性/女性性」を意識するようになったのはなぜ?
10年位前かなぁ、コンサルの方と話していたときに出会った言葉でした。
その方から、「あなたは男性性と女性性のバランスを意識するといいよ」みたいなことを言われました。
でも、そのときは、「あぁ、そうなんですね」くらいにしか受け取れていませんでしたけどね。
頭の片隅にはずっとあって・・・社長からは「りっちゃん(※)って女性っぽい側面(女性性)を強く持っている」と言われたこともありました。
でも、私、「ザ・女の子」って服装をしているわけでもないですし、何をもってそう言われているのか、ピンとは来ていませんでした。
それから数年経って、自分の中の「女性性」について理解できた、受け取れたのは・・・ 経営陣を含むマネージャー以上のメンバーで受講していたセミナーがきっかけでした。
セミナーの中で、役員とマネージャー職や一般の社員さんの間には崖がある、って習いました。
もしかすると飛び越えられるかもしれない幅だけど、底が見えないくらいに深い崖。
その例えを持って、崖を飛び越えるリスクを負った人(経営者)と、そうでない人の違いについて教わりました。
一般社員さんの側にいて、崖の向こう側の経営陣を眺めている自分を想像したときに、「私が居るべきは、ここじゃない!」って、強烈な違和感を感じたんですね。
私が求められていたのは、崖の向こう側(役員側)で、社長や会長と一緒に未来を創っていくことだ、って。
社長と会長は、ずっと手を差し伸べてくれていたことにも気付けました。
そのとき、これは不思議なんですが・・・あらゆることが繋がっていく感覚を得ました。
と同時に、「あ、私、女性性すごく強いわ」って、スッと入ってきました。
※弊社ではニックネームで呼び合っていて、妹尾は社内で「りっちゃん」と呼ばれています。
「男性性/女性性」について、それぞれに特性はありますか?
前述のセミナーでは、チームに分かれてディベートをやる機会がありました。
以前なら強く持っていた勝敗への意識みたいなのが薄れて、すごく自然体で参加できましたし、皆のことを見る余裕ができたんです。
皆の良い点にも気付けましたし、同時に自分には違う個性や魅力があるな、ってこれもすごく自然に受け取ることができました。
そのディベートでも活躍していた女性マネージャーの話になりますが、彼女は「石にかじりついてでも仕事をする」という、バリバリのキャリアウーマンタイプで(笑)、 責任感も強くて、すっごく優秀なんです。
そんな彼女を見ていて、「男性性」が強く出ているな、って感じたんです。
それは男性社会の中で働くために、彼女が手に入れてきたギアみたいなものなんだと思います。
私もそうであったように。 でも、彼女の中にはしっかりと「女性性」もあって、その辺りが表出してきたときに、どんな魅力的な人になるだろう?って思うようになりました。
本人にもそのことを伝えたら、「なんだか楽になった」って言ってましたね。
今、日本法人の男女比は、6割近くが女性です。
この「6割近くが女性」という表面的な情報を見るのではなくて、男性であっても、女性であっても、それぞれに「男性性/女性性」を持っている、ということに目を向けられるようになりました。
私は「女性性」がすごく強いって気付いたから、女性性的なアプローチをになりますが、男性性的なアプローチもあるわけです。
それができる仲間も組織にはいます。
自分の中の「女性性」に気付いて以降、起こった変化はありましたか?
昔、私がデザインチームを任されていたとき、よく遅刻してくる社員さんがいたんですね。
「時計が壊れていました」とか、色んな言い訳をしてくる子で・・・ ある日なんて「時計を見るのを忘れていました」って言いましたからね!(笑)
その当時、「男性性」が強く出ていた私は、「そんなのあり得ない!どうなったらそうなるの!?」ってまず怒っていました。
そして、「時計を見るのを忘れていた」ということについて、事実確認しながら、詰めていたわけです。
「男性性」が強く出ると、何事も「課題」にする傾向があるので、そういうコミュニケーションになるんです。
でも、今はそれはしないかな。
「時計見るの忘れちゃったかぁ。忘れないようにするにはどうすればいいんだろうね?」って、まず聞くでしょうね。
何かを改めないといけないときって、本人の口から反省点や改善点を言ってもらって、それを本人の耳で聞いて、脳と心を通らないといけないって思うので。
「男性性」が強いと、起こった事実を前にして、淡々と状況確認されて、有無を言わさず改善提案を突きつけられる感じかもしれませんね。
それが悪いというわけじゃなくて、私が本来持っている特性(女性性が強い)とは違うやり方だな、って気付いたわけです。
でも、人事担当役員でもある今は、「時計を見るのを忘れていました」って遅刻する人を採用したらダメですね(苦笑)
あと、個人面談のアプローチも大きく変わりました。
「男性性」が強く出ていていたときは、事象の輪郭をはっきり描こうとしていて、何でも具体的にしていました。
だからか社員さんが萎縮することもあったし、いつも緊張させていたんですね。
それが、「女性性」が強く出てくると、輪郭がぼんやりしてきたんです。
それでも気にならなくなってきて。 以前だったら、社員さんたちの、会社での勤務態度や生産性、キャリアという風に、輪郭をはっきりと描いて見ていたものが一変してきました。
社員さんに対して、「一人の人間の人生」という見方になりましたし、自ずと関わり方も変わっていきました。
例えば、「あなたはどんな人生をおくりたいの?」ということにも自然に興味がわいてきましたし。
それ抜きに何も話せないなって思うようになって。
彼らがぼんやりとイメージしている人生がおくれるように、どんなキャリアが必要か?今何をすべきか?と一緒に考えられるようになりました。
以来、面談の際に、彼らが極度に緊張するとか、萎縮しているというのは無くなって、笑い声やお互いに感動し合って涙がポロリ、というのが多くなりましたね。
また、相手を打ち負かすとか、そういう勝ち負けへの執着を手放しているので、社員さんたちからの不満のようなものも自然体で受け入れられるようになりました。
以前なら、「どの口が言っているんだ!」って打ち返していたでしょうし、「そんなことを社員さんに言われている事自体が私の課題だ!」って思ったかもしれませんね。
課題化しないことで、それらは通過点になっていきます。
だから、「通過点だから変わるんじゃない?」って思えるようにもなりました。
ただ、そればかりだと、組織としては間延びしていきますから、「男性性」が強く出ている人に、「期日はいつ?」「予算はどれくらいにする?」のように、必要な具体化を促してもらうのは大事ですね。
特に、「男性性が強い男性」と「女性性が強い女性」って互いに補完関係にあるので、上司2名体制で社員面談する際には意識してみると良いかもしれませんね。
性差と性質の組み合わせ表
男 | 女 | |
【男性性】 ・具体化しないと心地よくない ・物事を整理したい ・結論を決めたい ・勝ち負けに執着 ・支配したい(権威主義的) ・論理的、正論 ・伝える | 【男×男性性】 何事も「課題」と捉えて、一つ一つ状況を整理をして、淡々と解決方法を提示するタイプ。 言ってること(論理)は正しいけど、相手感情として受け取れないことも出てくるので要注意。 そのため、物事は進むけど、気をつけないと一方的になりすぎる傾向にある。 | 【女×男性性】 正義感が強く真面目な女性は、 ものすごい責任感を発揮する。 仕事だと、バリバリのキャリアウーマンタイプでカッコいい。 ただ、一人で抱えすぎてパンクする可能性もある。 |
【女性性】 ・抽象的が心地良い ・物事が整理されてなくても良い ・結論を決めなくていい ・勝敗がつかない方が好き (横並び、大勢に流される) ・支配したくない (責任は負いたくない) ・感情、感覚 ・聴く | 【男×女性性】 お節介を焼きたがる面倒見の良いタイプ。 世話を焼く自分が好き。 ただ、自分が焼きたい方法で世話を焼くので、求められないこともある。 それが分かると傷つく。 | 【女×女性性】 他者の顔色を伺いながら横並びになりがち。そのため、波風が立ちづらく、人間関係を築いていくのは得意。 ただ、集まって話し合っても何も決まらない、何も進まないということが多い。 |
採用やチームビルディングにおいての「男性性/女性性」はどう思う?
私もそうでしたけど、本人が自覚しないと、その性質って発揮されません。
だから、「あなたは、男性性が強いから・・・」とアドバイスしても、ほとんど意味がないんです。
そういう意味では、求職者の面接時に読み取ったりしても、その時点では大きな意味はないと考えています。
チームビルディングについても同様ですが、タイプを知るには良いかもしれませんね。
弊社も取り入れている『16 Personalities』では、人を様々なタイプに分類しますが、それよりも更に根源的なものとして、「男性性/女性性」を意識するなど、各社で使い方はありそうです。
現在、経営陣という小さなチームでいうと、男女比は2:1。
でも、私から見た男性性:女性性の比率は、1:1だと思うんです。
社長は男性性1、私は女性性1、会長は両方0.5みたいな。
こういうバランスの取り方って組織においても大切だなって、経営会議の中でも実感させられることは多いです。
前述にもありますが、「男性性が強い男性」と「女性性が強い女性」は互いに補完し合うので、その組み合わせは意識していくと良いと思います
うちの場合だと、社長と私ですがそれにあたります。
互いの苦手な点を補い合って、良い点が生きてきますから。
あと、採用やチームビルディングとは少し違いますが・・・ ビジネスにおいて、最低限の「男性性」って、やっぱり必要だと思います。
納期や予算など明確にする必要があり、輪郭が曖昧だと大きなトラブルになることも多いですから。
一方、人間関係を円満に構築していくという点では、曖昧でも受け取れる「たおやかさ」みたいなのがある「女性性」も最低限必要ですね。
これら性質の最低限を満たしていれば、あとは個性のようなものですから、一長一短ありますよね。
自覚できると、自分の個性を発揮できるでしょうし、何より自然体でいられるから楽です。
中小企業の組織を見ていて感じることはありますか?
経営者って立場上、弱いところを見せられないって思いがちですよね。
だから、どうしても「男性性」が強く出ている人が多いですね。それは男性でも女性でも。
そういう経営者には、「女性性」が強く出るタイプの人がサポート役として、近くにいて助けてあげられるのが良いのですが・・・
男性性が強いと「助けて」って言えないんですよね(苦笑)
経営者が自分の性質を知れば、そういう頼り方をしてもいいって受け取れる様になると思うんですが。
ただ、自分では気付きにくいことですから、素直に受け取れるかはさておき、私のように誰か言ってくれる人が近くに居ることが大事かもしれませんね。
そう考えると、私は運が良かったですね。
企業がこぞって取り入れる「ジェンダーレス」などのトレンドとは違う切り口でしたが、いかがでしたか?
単なる性差で考えていると本質が見えなくなりそうですね。
皆さんの内面にあるのは男性性?それとも女性性?どんなバランスでそれらが存在しているのでしょうか?
これはコミュニティで自分が求められる役割によっても、変わってきますから、正解があるものではありません。
ただ、「本来の自分の性質」を知っておくことは、自分らしく生きるためのヒントになりそうですね。