Title 現場の本音「海外法人(子会社)との業務について」

Date 2024.01.15
Category
Hashtag

ブログでも度々紹介していますが、弊社はフィリピンに法人(LH&creative Inc.)があります。
海外進出している日本企業について気になって調べてみたところ、総数(拠点数)は2021年時点で7.7万件というデータが出てきました。
弊社のも7.7万分の1になるわけですが、我々のような中小企業であっても、海外に拠点を持っている企業や、それに関心がある企業は少なくありません。
実際、弊社のフィリピン法人には、年間何件か日本企業から視察のお問い合わせをいただきます。
昨年末もセブに拠点を持つ上場企業から、情報交換したいとのことでご来社いただく機会がありました。
ところで、視察にいらっしゃる日本人の方(主に経営者やそれに準ずるポジション)から、必ず聞かれることがあります。
それは以下のような内容です。

コミュニケーションはどうしていますか?

クオリティ/スピードはどうですか?

日本人駐在スタッフの生活はどうですか?

採用はどうやっているのですか?

どうやら、これらが海外進出に大なり小なり興味がある企業・人が持つ代表的な不安や疑問のようです。
確かに、弊社も、フィリピンに子会社LH&creative Inc.(以下LH&c)を設立する前までは、全く同じ不安や疑問を持っていました。
今回は、こうした質問に経営者視点で答えるのではなく、海外の子会社と業務を進めている現場スタッフのリアルな声をご紹介してみようと思います。

今までパートナーさんに依頼していた仕事をLH&cに依頼することになったとき、どんな「不安」を感じましたか?

😟 英語でのコミュニケーションが不安…

😟 日本語が理解できない相手に、どうやってデザインの指示をしたらいいの!?

😟 何を、どのように、どこまで伝えたらいいのか、指示が不安…

😟 指示を出すまでの手間がかかりそう…

😟 日本とフィリピン、リモート環境でのマネジメントが不安…

😟 業界の基本的なルールを知らない彼らに仕事をやってもらえるのか?

😟 思った通りの品質で、期日内にあがってくるか!?

😟 言葉も文化も異なる彼らに、「信頼できる」「先進的」「女性らしくエレガント」など、デザインの指示でよく使う表現が伝わるのか?

仕事となれば責任が発生しますので、各自不安は大きかったようです。
実際、フィリピン法人が設立しても、しばらくは仕事の相談がありませんでした…

実際に出してみて/やり取りしてみて、どうでしたか?

💡 英語はGoogle翻訳で十分だとわかった。

💡 ビデオチャットの画面共有をしながらの、拙い英語の指示でも大丈夫だった。

💡 最初は、日本人エンジニアにお願いするようにはいかなかった…

💡 ニュアンスを伝えるのに苦労した…

💡 時間通りに正確に上がってくることはほぼなかった…

💡 想像以上に大変で疲労した。彼らのスキルもあったと思うけど、名刺1案のデザインディレクションに一日かかった…

💡 現場に管理者を1人置く必要はあると思う。

案外大丈夫だったこと、やっぱり難しかったことの両方があるようですね。
例えば、名刺などの印刷物については、フィリピンでは日本ほど多くの印刷物がありませんので、そもそも単純に「不慣れ」です。
このように、日本人の感覚で「わかるだろう」と進めると、上手くいかないことも多いです。
彼らの事情(文化、慣習など)を理解した上で、与えるタスクを選別していく必要もあります。
一方、懸念していた英語でのコミュニケーションについては、翻訳ツールを使ったり、画面共有するなどの工夫でなんとかなったようです。

「不安」を払拭していくために、具体的にどんな試行錯誤/創意工夫がありましたか?

💡 お互いの頭の中にあるイメージをすり合わせるために、できるだけ参考(画像や動画など目に見えるモノ)を探してもらうようにした。

💡 デザイン/開発の基本ルールを整理し、英訳した。

💡 日本人マネージャー(駐在員)が直接教育した。

💡 海外法人側にQA(Quality Assurance)の体制を作ることで、品質が向上した。

💡 報連相を意識。例)定時の進捗報告

💡 ビデオチャットの画面共有で、お互いに目視確認し合うようにした。

💡 テキストチャットだけでなく、できるだけビデオチャットで打ち合わせを行った。

💡 回を重ねるにつれて、要素分解して伝える力がついてきた。

💡 長い文章は誤解のもとなので、なるべく短文で完結に指示をした。

💡 指示によく使う言い回しなどを覚えていくことで、スムーズに指示ができるようになった。

💡 指示で使っている英語表現を共有し合った。

💡 フィリピン人マネージャーが作業時間などの基準を設けてくれたため、事前に必要な作業時間が予測できるようになった。

報連相は非常に大事ですが、実際のところ、「作業進捗を報告しなさい」では動いてくれません。
「作業進捗を、12時、15時、17時に、チャットで担当ディレクターに報告しなさい」と具体的に指示する必要があります。
このように具体的な指示があればその通りに動いてくれます。(これは日本人でも同じですね)
逆に従わない場合、人事考課の際にネガティブな評価になる旨を伝えて改善させることができます。
万一、改善が見られなければ、雇用契約書に従って、相応のペナルティを課すこともできます。契約書にその記載があればですが。

日本人は「言われたことしかやらない」と不満を持ちますが、それは逆に考えれば、「言われたことならしっかりやる」ということです。
契約社会では、言われたこと以外に余計なことをやったら契約違反ですからね。
日本人お得意の?!曖昧な指示は、世界で全く通用しません。

LH&cメンバー(フィリピン人)と仕事するにあたって、役に立ったツールなどはありますか?

💡 Google翻訳、DeepL、Grammarly

💡 Google Calendar

💡 Adobe Xdの共同編集・プロトタイプ

💡 Piquet(弊社開発のオンライン校正ツール)

💡 Skype、Meetなどのビデオ会議

フィリピン法人を設立して以来、翻訳ツールは必需品となりました。
もし、設立していなかったら?・・・ほとんど翻訳ツールを使うことはなかったと思います。それを考えると大きな変化ですね。
社員さんの中には、この機会に自身で勉強して、英語がペラペラになった方もいます!
「Piquet」というのは、修正箇所を伝えるためのオンライン校正ツールで、フィリピン法人を設立してから、彼らとコミュニケーションをとるために開発したものです。
修正箇所を具体的に伝えることができ、内容をQAチームと共有して社内校正できるので非常に便利です。

現在では、当初感じていた「不安」は随分軽減されていったと思います。お互いに変わった「きっかけ」は何ですか?

💡 指示のフォーマットができてきた。

💡 業務で使う用語(英語)を正しく使えるようになってきた。

💡 デザイン/開発に必要な日数/時間が明確になってきた。

💡 回数を重ねるうちに、この表現は伝わる、これは意図したように伝わらない、などの経験が蓄積されていった。

試行錯誤、創意工夫していく中で、徐々に改善されていったようです。
弊社を視察して、フィリピンに拠点を設けた企業もいらっしゃいますが、かつての私たちと同じように苦戦しているようです。何事も一朝一夕にはいきませんね。

これまでの経験から、LH&cメンバー(フィリピン人)へ仕事をお願いする際に、心がけていること(自分なりの創意工夫など)を教えてください。

💡 5W3Hを意識した情報整理。

💡 日本語独特のまどろっこしい言い方をしない。

💡 ロジカルな指示(文章)になるよう努める。

💡 指示(英文)は短く簡潔に。

💡 伝わりづらいところは画像に指示を入れるなど、ビジュアルで共有する。

💡 2回で伝わらなかったら、駐在している日本人マネージャーに入ってもらう。

💡 とにかく端的に結論から伝える。その後に、なぜなのか、今どうなっているのかなどの補足説明を伝えるようにしています。(PREP法)

💡 曖昧な表現を使わない。例)「もっと大きく」ではなく、「〇〇pixにする」など。カラー、スペース、フォントの太さなども数値で指定できるものは数値で指定。

ご覧になって、「当たり前のことじゃないか」と感じませんか?
なぜか日本人が、日本人に指示を出す場合、これら全てが蔑ろにされてしまいます。
そんな品質の低い指示に対して、品質の高いアウトプットを求めるのが日本人です…変でしょう!?(苦笑)
実は、「日本人特有の曖昧な指示は、世界では全く通用しない」ということを知ってもらうために、わざわざ!?フィリピンに子会社を作り、業務のコミュニケーションをとる機会を設けました。
今の時代、日本人としか仕事ができないというのは、リスクでしかありませんからね。

日本人とのやり取りと比較した場合、コミュニケーション、品質、スピードなどにおいて、違いはありますか?
もし、外国人(フィリピン人)と仕事しているからこその違いがあれば教えてください。

💡 日本人相手だと、日本語が通じるので、伝えやすい/伝わりやすい。

💡 日本は多様性が低いので同じ文脈で話せて楽。

💡 日本語の意味がわかることが品質に関係する仕事では大きな差がでる。例)文字レイアウトが大事なデザイン(とくにDTP)など

💡 細かな指示をするときには、日本語が理解できる相手の方がやりやすい。

💡 フロントエンド(Webコーディングなど)はスピード、クオリティともに日本とフィリピンとで差はない。

💡 フィリピン側に実績がある技術においては、改めて日本人エンジニアに頼むよりも早い。

💡 機械的に進める作業は日本人と変わらない。

💡 外国人が相手だと、ちょっと電話して(日本語で)説明する、というのができない。

多くが言語由来のものです。
仮に、フィリピン人が日本語を使えたら?・・・日本人との差はなくなるようです。
では、英語圏を相手にしたときはどうでしょうか?
フィリピン人は英語が話せますから、英語圏の企業に選択されるのは親会社の弊社(日本法人)ではなく、子会社のフィリピン法人ということになりますね。
こう考えると日本の優位性がほとんどありません(汗)

前述の質問に関連して、日本人、フィリピン人それぞれの特性(得手不得手など)に思い当たる点があれば教えてください。

💡 日本人の得意: 日本語のデザイン。 主体的に創意工夫しようとする姿勢は日本人の方が高めな気がする。 フィリピン人の得意: ルールに則り与えられたミッションを正確にやる。

💡 違いはない。言語による差異があるだけ。 逆に顧客が全て英語圏だったら、上記の質問の答えは全て逆転すると思う。

💡 特にない。

実際に働いてみての感想は、「当初思っていた、感じていたほどの差は、今は感じない」ということのようです。
言語由来の不安は大きかったようです。
しかし、それを言い訳にせず、両社が創意工夫、試行錯誤することで、業務のスピードと品質を高めることができました。
翻訳ツールなど、ランゲージバリアを低く、薄くする文明の利器も無数にありますからね。
案外、コミュニケーションの不安の大半は慣れで解決していくようです。
その結果、「確かに日本語で指示できないのは不便だけど、業務に支障がでるほどではない」となりました。
「日本語でしかニュアンスを伝えることができない」というものも、英語表現を覚えたり、以前やったプロジェクトを例に出して「前回と同じような雰囲気で」と伝えることはできます。
このように諦めずに継続していくことで、互いの業務コミュニケーションも上達していきます。
また、興味深い変化としては、フィリピン法人とのやり取りが当たり前になってからご入社くださった社員さんやアルバイトさんたちは、普通にフィリピン法人のスタッフとやり取りをしています。
彼らの先輩たちが英語と異文化に拒否反応を起こし、恐る恐るコミュニケーションをとっていたことを考えると、全く違います。
こうした「当たり前」環境を創れると、後が楽ですね。
前述しましたが、一朝一夕にはいきませんが。


今後、機会があれば、

日本人駐在スタッフの生活はどうですか?

採用はどうやっているのですか?

に関連した記事も書いていきたいと思います。
ご期待ください。