「指示待ちの人が多くて、成長を待っていられない」。経営者仲間や人事の方と話していると、必ずと言っていいほどこの話題になります。実際、数字にもはっきり表れていて、ある調査では企業の75%が「Z世代社員のマネジメントに難しさを感じている」と回答し、理由のトップに挙がったのは「指示待ちな姿勢」と「主体性・責任感の弱さ」でした。一方で、当の新入社員たちに「大事にしたい力」を聞くと、1位は「主体性」で56.6%。企業が新入社員に求める「規律性」への期待は33.7%あるのに対し、本人たちが規律性を大事にしたいと答えたのはわずか6.8%(2024年度 新入社員意識調査引用)。育てる側と育てられる側で、見ている方向がすれ違っていることが数字にも表れています。私たちライオンハートも、採用や組織づくりの現場でこの壁に何度もぶつかってきました。今回は、その壁を越えるために私たちがたどり着いた、少し逆説的な持論についてお話しします。
「自発的」と「主体的」は、似ているようで全然違う

「自発的に動ける人が欲しい」。正直、うちも昔はそう言っていました。でも今は言い方を変えています。欲しいのは「主体的に動ける人」。この2つ、似ているようで中身はまったく違うと思っています。自発的な人は、タスクが終わると「次、何をしたらいいですか?」と聞いてきます。動く意欲はあるけれど、起点はいつも誰かの指示。主体的な人は違います。話の途中からもう提案が出てくる。「この場合はどうでしょう?」「だったらこんなこともできますよね」「こうしたら面白いかもしれません」。一を聞いて十を知るタイプで、話しているこちらまで前向きになれます。
この違いに気づいたきっかけは、「羊はいらない」という、社内で長く使ってきた言葉でした。羊とは、おとなしい人でも悪い人でもなく、言われないと動かない人、変化に自分で気づかない人のことです。ビジネス書『ザ・ゴール』が描くボトルネックの構造と同じで、分業で動く組織では、一人の遅さが必ず後工程に伝染していきます。どんなに速く走れる人がいても、組織である以上は歩調を合わせざるを得ない。だからこそ、主体的に動ける人がどうしても必要なのだと、経営をしながら痛感してきました。
人づくりの本質は「教える」ことではなく「環境」にある
先日、経営専門誌『理念と経営』に掲載されていた「人づくりの本質は環境づくりにある」という内容を取り上げた動画を見て、深く頷きました。動画の中では、名将たちを描いてきた野球評論家・近藤唯之氏の著書にある「教えすぎるな」という言葉や、経営の神様と呼ばれる松下幸之助氏の「ある程度の責任を持たせて仕事を任せると、人はその責任を自覚し、自分なりの工夫や努力によってその責任を果たそうとする」という言葉が紹介されていました。人は、コントロールされて育つのではなく、自分で考え、判断し、決断する経験の中で育つ。これは、私たちが日々の採用や組織づくりで感じてきたこととまったく同じでした。
「人づくりとは何か」と聞かれたら、人づくりとは、知識や技術を教え込むことではなく、人が安心して挑戦し、自分で気づける環境を整えることなのかもしれません。
実際、2026年の人材育成トレンドを調べても「やらされ感の強い研修は、業務行動につながりにくい」という指摘があります。Z世代を採用している企業を対象とした調査では、Z世代の「指示待ち」に悩みながら、同じ社員たちが本当は「主体性」を一番大事にしたいと思っている。このねじれを解くカギは、教える技術の巧拙ではなく、任せる勇気の方にあるのだと思います。理念が判断の軸をつくり、経営が判断できる仕組みをつくり、人づくりが「自分で決められる人」を育てる。この3つが揃って初めて、組織は学び続けられるのだと考えています。
「勝手に動き始めた」を、会社は止めなかった
理屈だけでなく、社内にも実例があります。あるとき、中途入社3年目のディレクターが「ライオンハートはブランディング屋だけど、マーケティングが足りない」と言って、誰に頼まれたわけでもなく勝手に動き始めました。最初から周りの理解を得られたわけではありません。それでも彼は腐らず、「今、自分にできること」を考え続け、手を止めませんでした。やがてAIという追い風もあって活動は加速し、エンジニアと連携して自社サービス『スルスル解析(AIによる簡単解析ツール)』までリリースするに至りました。もとのコア業務から派生して、活躍の幅がどんどん広がっていったということです。
私たちが彼に「教えた」ことは、実はそう多くありません。やったことといえば、彼の「勝手」を止めなかった、それだけです。私たちは「これが自分たちの商売だ」と凝り固まって、それだけを続ける組織ではありません。目の前のお客様の課題を見て、自分たちのリソースを見て、「お役に立てるかも」と思ったらGO。理解されるか、応援されるかを気にする暇があったら、目の前の改善を繰り返す。この「未完成さ」を面白がり、自分でハンドルを握って加速させられる人。私たちが「事業家気質」と呼んでいるのは、まさにこういう人のことです。
権限を渡すという発想自体は、決して珍しいものではありません。たとえばヤマチユナイテッドは「カンパニー制度」を導入し、各事業部トップの一つ下の社員を「カンパニー長」に任命して、業績計画の策定から利益責任まで担わせることで、次の世代の経営者マインドを育てています。京セラのアメーバ経営も発想は近いものだと思います。ただ、これらはどちらも、制度として権限を精緻に設計できる体力がある会社の話です。成長途中の私たちが選んだのは、制度を先に整えることではなく、「勝手にやっていい」という空気を先につくることでした。順番が逆なんです。制度は後からいくらでも整えられます。でも「勝手にやっていいんだ」という実感は、誰か一人が実際にそれをやって、会社がそれを面白がって受け止めた瞬間にしか生まれません。
事業家気質を育てる環境に、共通する3つの条件

振り返ってみると、主体性が育つ環境には共通点があると気づきました。
- 裁量:やり方を決めるのは本人で、渡すのはゴールと理由だけ。手順まで細かく指定してしまうと、考える余白そのものがなくなってしまいます。
- 失敗の許容:転んでもただでは起きない前提で、まずやらせてみる。AIの時代は、デザインも文章もアイデアの検証も一瞬でやり直せます。失敗のコストが下がった分、行動の回数を増やせる環境を用意できるかどうかは、経営側の姿勢次第です。
- 目的の共有:何のためにやるのかが腹落ちしていないと、人は自分の判断に軸を持てません。理念やビジョンは、額縁に飾るものではなく、現場の最前線で使われて初めて意味を持つものだと考えています。
どれも特別なテクニックではないと思っています。むしろ試されているのは、経営側が「教えすぎたい」という欲を、あえて手放せるかどうかの胆力の方かもしれません。
まとめ:環境をつくれるかどうかが、すべての分かれ道
「主体性のある人材が欲しい」という悩みは、実は「育て方」の問題ではなく「環境」の問題なのかもしれません。私たちも、まだ道半ばです。事業家気質を持ったメンバーが組織の過半数を占めているかと言えば、正直まだそこまで至っていません。だからこそ、私たちは「教えすぎない」ことを選びます。手取り足取り教えるより、「勝手にやっていいんだ」と思える瞬間を、一つでも多く用意すること。それが私たちにできる、いちばん誠実な人づくりだと思っています。正解のない問いに一緒に挑み、試行錯誤そのものを面白がれる人と、これからも出会っていきたいと思っています。





