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同僚か、ライバルか。東大大学院生の4人に1人が中国人という時代に、私たちは何を考えるべきか【前編】

留学生と日本人学生が図書館で学ぶイラスト

弊社でアシスタントデザイナーとして働いてくれているスタッフのことを、よく思い出します。

中国出身で、旦那さんも中国人。主婦業をしながら、弊社でアシスタントデザイナーとして活躍してくれています。日本の大学院に進学し、日本語能力試験のN1を取得。TOEICはなんと900点近いスコアを持っています。本業とは別にドラッグストアでも働いており、登録販売者の資格を半年で取得しました。資格取得までの期間自体は一般的なペースですが、これがすべて日本語の試験だということを考えると、難易度はまったく違って見えてきます。

何より印象的なのは、彼女が「働くことが大好き」だと言っていたことです。実際、弊社での業務理解度も非常に高く、ディレクションの意図を汲み取る速さには驚かされます。

彼女のような人材に接していて感じるのは、「日本語ができる」というレベルをはるかに超えた本気度です。日本での仕事は、当然ながら日本語ベースで進みます。資格試験の文章も、デザインのディレクションのやり取りも、すべて母語ではない言語で乗り越えていかなければならない。それでも涼しい顔で結果を出してくる。

このハングリーさは、いったいどこから来るのか。実は今、似たような熱量を持った人材が、世界中、そして日本でも急増しています。今回はこのテーマを、前編・後編の2回に分けて考えてみたいと思います。

東大大学院生の4〜5人に1人が、中国人という事実

東京大学の大学院生の4〜5人に1人が、中国人留学生だということをご存知でしょうか。

2014年にはわずか1,270人だった東大の中国人留学生数は、いまや3,500人を超えています。約10年でほぼ3倍。しかもその95%が大学院生です。日本の最高学府の研究室で、4〜5人に1人が中国から来た学生という光景は、もはや珍しいものではなくなっています。

これは東大だけの話ではありません。日本学生支援機構(JASSO)の2025年の調査によれば、日本国内の外国人留学生のうち中国人は約13万1,000人と過去最高を記録し、全体の3割以上を占めています。非英語圏の国としては、世界的に見ても異例の数字です。

弊社のスタッフのような人材が、決して例外ではなく、ひとつの大きな潮流の中にいるということが、この数字からも見えてきます。

留学生たちは「世界分散」している

ここで押さえておきたいのは、これが日本だけで起きている現象ではないということです。

2009年以来、長らくアメリカの留学生数トップだった中国は、最新の調査でインドにその座を譲りました。アメリカ、イギリス、オーストラリア、カナダという英語圏の主要4カ国すべてで、中国人留学生は減少フェーズに入っています。各国が安全保障上の理由からビザ審査を厳格化し、受け入れ人数にも上限を設けるようになったためです。

ただし、これは中国人が留学そのものをやめたという話ではありません。海外に出る中国人留学生の総数は、むしろ100万人を超えて過去最高を記録しています。つまり彼らは「行き先を変えた」のです。

マレーシアは2019年から留学生数が5倍以上に急増し、ニュージーランドでは留学生の3人に1人が中国人という状況になっています。英語で学べて学費が比較的安い国々へと、流れが大きくシフトしているわけです。

そして日本も、その有力な選択肢のひとつとして選ばれています。

なぜ、ここまで必死になれるのか

ここで多くの方が抱く疑問は、「なぜ彼らはそこまでハングリーになれるのか」ということではないでしょうか。

その背景には、中国特有の戸籍制度があります。中国では生まれた場所によって、その後の人生の選択肢が大きく変わります。大学受験では、北京や上海の戸籍を持つ学生が有利な合格枠を得る一方、地方都市の学生は同じか、それ以上の点数を取っても不合格になるという、構造的な不条理が存在します。地方戸籍のまま都市部に出ても、公立学校への通学や医療保険、不動産購入などが厳しく制限され、格差から抜け出すことは容易ではありません。

だからこそ、彼らは「海外に出て、人生をリセットする」という選択を取ります。海外の大学を卒業して「海帰(ハイグイ)」となれば、国内の熾烈な競争を経ずに国際人材としての評価を得られます。さらに一定レベル以上の海外大学を卒業して帰国すると、特例で上海や北京の都市戸籍が与えられる優遇策まで存在します。海外での就職を経て永住権を得れば、生まれながらの制約から完全に解放されるという道も開けます。

つまり彼らにとって留学は、キャリアの一選択肢ではなく、人生そのものを賭けた生存戦略なのです。弊社のスタッフが見せていた「働くことが大好き」という姿勢も、こうした背景を知ると、単なる勤勉さとは違う重みを持って見えてきます。

日本人学生との、温度差

この熱量は、日本の一般的な大学進学とは性質が大きく異なります。

日本では、最低限の生活や医療がある程度保障された社会の中で、「とりあえず大学に行っておく」という進学が一定数存在します。それ自体が悪いわけではありません。ただ、失敗しても致命傷になりにくいという安心感の中での選択であることは事実です。

一方で、海外を目指す中国人留学生の多くは、一人っ子政策の影響もあって、親や親族一同の期待、そして時に何千万円という家族の全財産を背負って渡航してきます。「失敗すれば、這い上がれない過酷な生活に戻る」という強い危機感のもと、現地の言語を死に物狂いで習得し、資格を取り、貪欲に成果を求める。この差は、採用や育成の現場で接してみると、肌で感じる方も多いのではないでしょうか。

[出典元]
東京大学公式サイト
https://www.u-tokyo.ac.jp/ja/intl-activities/intl-data/d03_02_02.html

日本学生支援機構(JASSO)2025年調査結果
https://www.jasso.go.jp/statistics/gakusei_torikumi/2025.html