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同僚か、ライバルか。東大大学院生の4人に1人が中国人という時代に、私たちは何を考えるべきか【後編】

日本人と外国人の同僚がオフィスで働くイラスト

前編では、東大大学院生の4〜5人に1人が中国人留学生であるという事実から、彼らを突き動かす「戸籍制度」という切実な背景、そして日本人学生との温度差について見てきました。後編では、この現象を企業や働く現場の視点から、もう少し深く考えてみたいと思います。

受け入れる側も、本音は揺れている

実はこの流れを歓迎しているのは、留学生本人だけではありません。

少子化が進む日本では、定員割れを起こす大学や日本語学校が少なくなく、外国人留学生は経営を支える重要な存在になっています。海外に目を向けても同じです。オーストラリアやカナダ、ニュージーランドのように、「特定の国への依存を減らしたい」と政策的には口にしながら、実際には留学生がもたらす経済効果を手放せない国は少なくありません。オーストラリアでは留学産業がすでに480億ドル規模に達しており、受け入れ上限を設けようとした政府の法案が大学側の強い反発で否決されるという出来事まで起きています。

「依存はしたくないが、頼らざるを得ない」。このジレンマは、企業の採用現場にも似た構図があります。「日本人だけで採用を回したい」という気持ちと、「実際には優秀な人材が見つからない」という現実のあいだで揺れている経営者や人事担当者は、少なくないのではないでしょうか。

「言語の壁」だけでは、語れない

弊社では、中国人のアシスタントデザイナーだけでなく、フランス人のアシスタントや、フィリピンの子会社のデザイナーとも一緒に仕事をしています。彼女たちと働く中で見えてきたのは、「外国人材との仕事」とひとくくりにできるほど単純な話ではない、ということです。

中国人のアシスタントデザイナーとは、案外コミュニケーションに困ることはありません。日本語の理解度が高く、ディレクションの意図もスムーズに伝わります。一方でフランス人のアシスタントは、彼女ほど日本語が堪能というわけではなく、日常会話は問題なくても、仕事のニュアンスを伝える場面では工夫が必要になります。

そしてフィリピンの子会社のデザイナーとは、英語でコミュニケーションを取っています。言葉自体のやり取りには問題がありません。しかしここで見えてくるのは、また別の課題です。

デザインのテイストは、国や文化によってそれぞれ異なります。日本には日本の、中国には中国の、フランスにはフランスの感覚があります。それは優劣の話ではなく、その土地の文化や美意識に長く触れてきたかどうかによって、自然と体に染みついてくるものです。弊社でフィリピンのデザイナーに日本向けの案件を依頼すると、プロジェクトによっては苦労する場面があります。一方で、英語圏向けの案件や海外展開のためのローカライズデザインになると、彼らの感覚は途端に活きてきます。

つまり、仮に言語の壁を越えられたとしても、今度は「テイストの壁」が立ちはだかります。「誰が優れているか」ではなく「誰が、どの文化・市場に強みを持っているか」という話なのだと、日々の業務を通じて実感しています。

学習耐性という、見えにくい強み

前編でご紹介した弊社のアシスタントデザイナーのことを、もう少し掘り下げて考えてみたいと思います。

彼女が弊社に来たとき、私が感じたのは単なる「語学力の高さ」ではありませんでした。日本語能力試験N1、TOEIC900点近いスコア、ドラッグストアでの登録販売者資格の取得。これだけを並べると「努力家だ」という印象で終わってしまいがちです。もちろん努力家であることは、それ自体が素晴らしい資質です。ただ、私が注目したいのはその先にあるものです。

異国の地で、母語ではない言語で、次々と学び続けている。これは「学習耐性」と呼ぶべきもので、知識を詰め込む能力とはまた違う種類の強さです。初めての環境に飛び込み、わからないことがあっても諦めずに吸収し続ける力。この耐性があるから、業務理解の速さや高さにもつながっていくのだと思います。

「働くことが大好き」と彼女が言っていたのも、単なる勤勉さではなく、この学習耐性の表れだったのかもしれません。

彼らは、同僚であり、ライバルでもある

ここで少し視点を変えてみたいと思います。

異国の地でその国の言葉を習得し、現地の企業で実際に働いているという事実は、考えてみると本当にすごいことです。多くの日本人にとって、外国語で仕事をする、外国の職場文化に馴染む、それだけでも相当なハードルのはずです。それを彼らは、当たり前のようにやってのける。

中国人留学生だけではありません。前編で触れたように、100万人を超える中国人が毎年世界中に飛び出し、各国で就職し、地域コミュニティを形成し、経済や社会の中に溶け込んでいきます。かつて東南アジアで、わずかな割合の華僑が経済の中枢を握っていった歴史があるように、その最新版が今、グローバル規模で静かに進んでいます。

東大大学院の4〜5人に1人が中国人であるということは、これからの日本のビジネスや研究の現場において、彼らが同僚になる時代が確実に来るということです。そして同僚であると同時に、あなたのキャリアにとってのライバルでもあります。

「海外からわざわざ来た人たちと競争するなんて」と思うかもしれません。しかし現実には、すでにそういう時代が始まっているのです。

まとめ

世界は今、静かに、しかし確実に動いています。

日本語を習得し、資格を取り、業務を理解し、「働くことが好き」と言いながら成果を出し続ける人たちが、すでに日本のオフィスに、研究室に、現場に入り込んでいます。

企業にとっても、個人にとっても、大切なのはまずこの現実を知ることではないかと思います。中国人留学生の場合、彼らを突き動かしているのは前編で見てきたように、戸籍制度という極めて切実な事情です。ただ、これは中国人に限った話ではありません。異国の地でゼロから言語を習得し、現地の企業で働くという選択をしている人たちには、国籍を問わず、それぞれの切実な動機があります。少なくとも「なんとなく海外に行ってみよう」という感覚とは、根本的に違います。日本人がワーキングホリデーで気軽に海外へ出るのとは、背負っているものの重さがまるで異なる、ということです。

学習耐性や業務理解の深さといった、数字に表れにくい力を正しく評価できる感覚。そして、彼らとどう共生し、どう切磋琢磨していくか。その答えは、まず現状を正確に知ることから始まるのだと思います。

[ 出典元 ]
▼ オーストラリア教育省「Education export income」
https://www.education.gov.au/international-education-data-and-research/education-export-income-calendar-year