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2026.07.13

PRと広告が溶け合う時代に、経営者が言語化すべき「顧客のWhy」

PRと広告が溶け合う時代に、経営者が言語化すべき「顧客のWhy」

「うちの商品は良いはずなのに、なぜ伝わらないのか」。経営者や広報担当者からこの相談を受けるたびに、私はまず一つの問いを投げ返すようにしています。「その”良さ”を、お客様の言葉で説明できますか」と。多くの場合、答えに詰まります。伝えたい思いはあるのに、それを相手の頭の中にある”なぜ”に変換できていない。実はこれこそが、ブランディングという仕事の本質的な出発点だと考えています。

先日、クリエイティブディレクターによる対談動画を見る機会がありました。テーマは「PRと広告の違い」、そして「コンセプトメイキング」。広告とPRという、これまで別の職能とされてきた領域が実務の現場で溶け合いつつあるという指摘や、顧客への”アピール”と”PR”は似て非なるものだという整理は、日々クライアントのブランディング・マーケティング支援に携わる立場として、強くうなずくところがありました。今日はこのテーマをきっかけに、名古屋でブランディングエージェンシーを経営する立場から、私自身の実務経験に基づく「コンセプトの言語化」についての持論をお話ししたいと思います。

PRと広告の境界が溶けている今、なぜ「コンセプト」が経営課題になるのか

かつてPRと広告は、明確に役割が分かれていました。PRは第三者を介して信頼を獲得する活動、広告はお金を払って自社の主張を届ける活動。しかし今、SNSやオウンドメディアの普及によって、企業自身が「語り手」であり「発信者」であるという場面が急速に増えています。広告的な発信の中にもPR的な信頼構築の視点が求められ、逆にPR的な発信にも広告のような設計思想が求められる。この融合が進むほど、企業が最初に固めておくべきものの重要性が増します。それが「コンセプト」です。

私自身、名古屋でブランディングエージェンシーを経営する中で、Webサイトからロゴ、採用の場、時には空間まで、一社のお客様の複数の顧客接点に同時に関わることが少なくありません。そこで痛感するのは、接点の数が増えるほど、根っこにあるコンセプトがぶれていると発信全体が薄まってしまうという事実です。広告を出す、SNSを始める、採用サイトを作る。手段はいくらでもありますが、「何のために」「誰に向けて」「なぜそれを届けるのか」が定まっていなければ、施策を重ねるほどエネルギーが分散してしまいます。

実際、パーパス経営やESGへの関心の高まりを背景に、企業は「何を売っているか」だけでなく「何のために存在するのか」を問われる時代に入ったと指摘されています。加えて、AIが情報発信の標準的な担い手になりつつある今、企業が語るメッセージやストーリーには「エビデンス前提」であることが求められるようになってきました。感覚的な自己紹介ではなく、根拠を伴って自社の強みを言語化できるかどうかが、これまで以上に問われているのです。ある調査では、2026年のブランドコミュニケーションは「ブランドが自ら語る」のではなく「ブランドが役割を持って場に参加する」方向に移っていくとも指摘されています。発信の主導権が企業だけのものではなくなるからこそ、ぶれない軸としてのコンセプトの重要性は、むしろ増していると私は捉えています。

PRと広告が融合していくイメージを表す抽象的な図解

「顧客思考」は「顧客の言うことを聞くこと」ではない

先の対談で印象的だったのは、「顧客思考」イコール「顧客の考え」ではない、という指摘です。これは私たちが実務で日々向き合っている感覚と重なります。お客様にヒアリングをすると、多くの場合「もっとおしゃれに」「若い人に響くように」といった、抽象的な要望が返ってきます。ここで言われた言葉をそのまま形にするのが「顧客の考えを聞く」仕事だとすれば、その一歩先、「なぜおしゃれにしたいのか」「なぜ若い人に響かせたいのか」という背景にある動機まで掘り下げるのが、私たちが考える「顧客思考」です。

私たちはこの掘り下げのプロセスを、社内で「LHメソッド」と呼ぶ独自のヒアリング設計に落とし込んでいます。出発点にあるのは、子供が「なぜ?」「なにそれ?」「だれが?」「どうやって?」と際限なく質問を重ねるような、強い興味関心です。たとえば「赤にしたい」という要望が出たとき、そこで止まらず「どんな赤か」「なぜその赤でなければならないのか」を、あえて対照的な選択肢を並べて聞くことで掘り下げます。すると、依頼した本人も気づいていなかった潜在的な理由が言葉になっていく。これはまさに、対談の中で語られていた「顧客の”Why”を言語化する」という営みそのものだと感じています。

一般に「コンセプトメイキング」とは、企業やサービスの存在理由を一文で言語化し、届けたい相手に伝わる言葉とビジュアルに落とし込むプロセスを指し、3C分析(顧客・競合・自社)のようなフレームワークを用いて顧客インサイトを掘り下げる手法がよく紹介されます。フレームワーク自体は有効ですが、私たちの実務での実感としては、フレームワークを埋める作業そのものより、埋める前の「なぜその質問をするのか」という興味関心の質のほうが、最終的なコンセプトの強度を大きく左右します。同じ設問リストを使っても、掘り下げの深さが浅ければ表面的な言葉しか出てきません。

施策より先に「誰に・何を・なぜ」を問う ― 全体設計という思想

コンセプトメイキングというと、キャッチコピーやスローガンを作る作業だと誤解されがちです。しかし私たちが実務で大切にしているのは、言葉を作る前段階の「全体設計」です。私たちのマーケティング支援は、施策から入りません。まず「誰に」「何を」「なぜ」を明確にすることから始めます。「何をすべきか」を急いで決めるより先に「なぜそれをするのか」を固めることで、その後に選ぶ広告・SNS・SEO・採用サイトといった個々の手段の精度が大きく変わってくるからです。

これは決して抽象論ではありません。認知から行動(コンバージョン)に至るまでの顧客の動線を一枚の絵として描き、Webサイト・広告・SNS・採用媒体といった複数のチャネルを、バラバラの施策としてではなく、一つのストーリーの異なる場面として設計する。そうすることで初めて、広告的な発信とPR的な発信が矛盾なく共存できるようになります。対談の中で語られていた「PRと広告の融合」は、まさにこの全体設計があって初めて実現できるものだと考えています。

誰に・何を・なぜを問う全体設計の思考プロセスを表す抽象的な図解

言語化を「感覚」で終わらせないために、数字で検証する

もう一つ、経営者として意識しているのは、コンセプトを「言語化して終わり」にしないことです。どれだけ美しい言葉を作っても、それが実際に顧客に届いているかどうかは、感覚だけでは検証できません。私たちは自社開発のAI解析ツールを用いて複数の媒体を横断的に分析し、「どこで顧客の関心が離れているのか」「どの接点で言葉が響いていないのか」を、勘ではなくデータで捉え直すようにしています。コンセプトという抽象的なものを、具体的な行動データと突き合わせて検証する。この往復運動があって初めて、言葉は「額に飾るスローガン」ではなく「使える資産」になります。

実際、あるお客様の案件では、当初依頼されていたのはサイトのデザイン改善だけでした。しかしヒアリングを重ねる中で、本当の課題はサイトの見た目ではなく、社内の評価制度が対外的な発信内容と矛盾していることにあると分かり、最終的には評価制度の見直しにまで話が広がったことがあります。目の前の依頼の奥にある「なぜ」を掘り下げていくと、依頼の枠を超えたところに本質的な課題が見つかることは、決して珍しくありません。

まとめ ― コンセプトは、一度作って終わるものではない

PRと広告が融合していく時代において、企業が最後に頼れるのは、目先のテクニックではなく「なぜ自分たちは存在するのか」という問いに対する、自分たちなりの答えだと私は考えています。それは一度作って終わりのキャッチコピーではなく、状況が変わるたびに立ち返り、問い直し続けるものです。私たちが日々の案件で「その変更は、最初に描いた目的に合っていますか」と繰り返し確認するのも、コンセプトを生きた判断基準として使い続けるためです。

顧客の”Why”を言語化するという営みは、地味で時間もかかります。しかしその積み重ねの先にしか、広告的な発信とPR的な信頼を両立させるブランドは生まれない。そう考えながら、私たちは今日もお客様一社一社の「なぜ」と向き合っています。もし自社の発信に「なんとなく響いていない」という違和感を持たれているなら、その正体はおそらく技術やデザインの巧拙ではありません。社内の誰かがすでに気づいていながら、まだ言葉になっていない”Why”が眠っているのだと思います。それを一緒に掘り起こす対話ができるのは、社内の人間だけとは限らない。そんな第三者の視点として、私たちのような存在をふと思い出していただけたら嬉しく思います。

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