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2026.09.28

LHメソッドとは何か。比較材料が増えるほど、決め手が消えていくという話

LHメソッドとは何か。比較材料が増えるほど、決め手が消えていくという話

先日、あるBtoB購買に関する調査データを読んでいて、思わず「あ、これ、20年前から感じていたことだ」と声が出た。

大型のBtoB購買では、意思決定に関わる人の数がどんどん増えているという調査結果だった。稟議に関わる担当者が7名以上いる案件が6割近くにのぼるという。この数字を見て、僕は自分がまだデザイナーとして現場に立っていた頃のことを思い出していた。

多くのデザイナーはA案、B案と複数のデザインを用意して、お客様の好みに合わせて決めてもらう。ところが僕は、なぜか1案だけで提案して、それがそのまま採用されることがほとんどだった。「どうして自分は1案で決まるんだろう」。その理由が知りたくて、通っていたビジネススクールの卒論のテーマにしてみた。この体験こそが、後に「LHメソッド」と呼ばれるようになるフレームワークの原点になる。

冒頭で言い切っておきたいのは、これだ。比較するための材料が増えるほど、実は決め手は見えにくくなる。これはこの20年、現場で感じ続けてきたことだけど、最近のBtoB購買データを見て、あらためて確信に変わった。

意思決定に関わる人が増えるほど、”決め手”は逆に見えなくなる

意思決定に関わる人が増えるほど、決め手は逆に見えなくなる

IDEATECHが2026年5月に実施した「日本のBtoB大型購買・バイヤー・イネーブルメント実態調査」(年間契約500万円以上のソフトウェア・SaaS導入に2名以上で関与した330名対象)によると、稟議に関わる担当者が7名以上いる案件が58.5%にのぼるという。

面白いのはここからだ。同じ調査で、「機能比較表」が購買判断に影響すると答えた人は約半数にとどまった。一方で「ROI試算シミュレーター」や「運用負荷の見積もり情報」を有用だと答えた人は約6割にのぼる。

つまり、関わる人が増えて、比較のための資料は増えているのに、横並びの比較表そのものは決め手として機能していない。決め手になっているのは、自分たちの状況に当てはめたときに何が起きるか?という、解像度の高い個別の答えの方だ。

つまり、「御社の場合はこうなります」と言い切れる情報の方が、「A社とB社の機能はここが違います」という一覧表より、よほど背中を押すということなのかもしれない。これは、A案・B案を横に並べて「どちらが好みですか」と聞くやり方が、実はあまり機能していないという話にも重なる。

候補は増えても、最後は自分の目で確かめる

Pifteeが2026年に実施した調査(BtoB発注先選定に関わった196名対象)では、AI検索を使って初めて知る企業を見つけた人が82%にのぼった。ただし、そのうち実際に発注に至ったのは21%。そしてAIを使う人の98%が、何らかの形で「裏取り」をしていて、71%は結局その企業の公式サイトを自分の目で確認している。

HubSpot Japanが同じく2026年に実施した「日本のBtoB購買に関する意識・実態調査」(従業員50名以上の企業に勤める1,573名対象)でも、似た傾向が見える。生成AIがまとめた情報そのものへの信頼度は37.8%しかない。価格や契約条件のような明瞭な情報への信頼度が60.6%あるのと比べると、はっきり低い。

情報収集の入り口は増えた。候補企業を見つける手段も増えた。それでも、最終的に信頼して選ぶ根拠になっているのは、その会社が自分の言葉で言い切っていることの方だ。比較のための情報がいくら増えても、決め手はそこでは作られていない。正直な話、これは発注する側だけの話じゃなく、こちらが提案する側にとっても、うかつに聞き流せない数字だと思っている。

LHメソッドとは何か──「1案で決まった」提案の裏側

LHメソッドとは何か──「1案で決まった」提案の裏側

うちには「LHメソッド」と呼んでいる、20年近く磨いてきた課題抽出のフレームワークがある。

冒頭で触れた通り、始まりは僕自身の「なぜか1案で決まる」という経験だった。分析してわかったのは、デザインの技術力そのものより、ヒアリングの質が決定的に違っていたということだ。目的と現在地さえ正確に把握できれば、課題は自然と浮かび上がり、解決策も自ずと絞られていく。逆にそこが曖昧なままだと、提案はただの「好み合わせ」で終わってしまう。複数案を並べるという行為は、実はヒアリングで詰めきれなかった部分を、お客様に選んでもらうことで埋め合わせているだけのことも多い。

僕なりの言葉で定義するなら、LHメソッドとは「理想状態と現在地のギャップを言語化し、お客様自身もまだ気づいていない課題を浮かび上がらせるための、問いの型」とも言える。辞書的なフレームワーク論というより、相手への強い興味関心がそのまま構造になったものに近い。「赤」と言われたら、どんな赤なのかを掘り下げる。極端な例を提示して選んでもらい、「なぜそれを選んだのか」を聞く。子どもが「なんで?」を繰り返すのと同じ姿勢で、曖昧なイメージを一つずつ具体化していく。

課題には二種類あると思っている。お客様がすでに自覚している顕在的な課題と、まだ言葉になっていない潜在的な課題だ。LHメソッドが本領を発揮するのは、後者を引き出すときで、これは正直、時間もかかるし面倒な作業だ。でも比較する手間を、お客様に渡す前にこちらが先に引き受けておくという感覚に近い分、結果として「選ぶ」段階そのものがシンプルになる。

「その変更、最初の目的に合っていますか」という問い

LHメソッドが実際に効いてくるのは、プロジェクトが動き出した後だ。

進行の途中でお客様の要望が変わることは珍しくない。予算の都合で、当初大事だと決めた要素を削ろうとする場面もある。そういうとき、うちは必ずこう問い返す。「その変更は、最初に描いた目的に合っていますか」と。目的達成に不可欠だと判断すれば、遠慮なく提案を差し戻す。結果として「やっぱり変えなくてよかった」と言ってもらえることが少なくない。

一見、面倒な会社だと思われるかもしれない。でも、この問い返しこそが、後になって「頼んでよかった」と感じてもらえる部分だと思っている。意思決定に関わる人が増え、社内の説明資料が増えるほど、この「最初の目的」は簡単にぼやけていく。関わる人数が増えるほど、声の大きい誰かの意見や、その場の空気で結論が流されそうになる場面も増える。だからこそ、外側から目的に立ち返らせてくれる相手の価値は、むしろ上がっているんじゃないだろうか。

まとめ:比較材料ではなく、「言い切れる会社」が選ばれる時代に

意思決定に関わる人が増え、情報収集の手段が増えても、決め手そのものは増えていない。むしろ、比較材料が多いほど、決め手は見えにくくなる。だとすれば、これから発注先を選ぶときに見るべきなのは、選択肢の多さや資料の丁寧さではなく、その会社が自分の言葉でどれだけ言い切れるかだと思う。

具体的に言えば、要望をそのまま右から左に受け取らず「本当にそれで目的に届きますか」と問い返してくるかどうか。複数の案を並べて選ばせるのではなく、一つの答えとその理由を、責任を持って提示してくるかどうか。そのあたりを見れば、意外と会社の実力差は見えてくる。

うちがこの20年やってきたLHメソッドも、結局はそのための問いの積み重ねでしかない。もしその問いに付き合ってほしいと思ってもらえたなら、それがいちばん嬉しい。

よくある質問

Q. LHメソッドは他社にも真似できるものですか?

A. 構造自体はシンプルで、型としては誰でも真似できると思う。ただ、実際に機能させるには、相手への強い興味関心をヒアリングの間ずっと保ち続ける胆力が要る。そこが一番、真似しにくい部分だと感じている。

Q. 比較検討をせず1案だけ出されると、逆に不安になりませんか?

A. 最初は驚かれることも多い。でも実際は「比較しない」のではなく、ヒアリングの段階でA案・B案が生まれる余地を先につぶしているだけだ。比較する手間を、お客様に渡す前にこちらが引き受けている、という言い方の方が近いと思う。

Q. LHメソッドは、ブランディング以外にも使えますか?

A. 採用面接や組織診断、海外プロジェクトのヒアリングでも実際に使っていて、言語や文化の壁を越えても機能する、わりと普遍的な「課題発見の型」だと感じている。

参考・引用元
株式会社IDEATECH「日本のBtoB大型購買・バイヤー・イネーブルメント実態調査2026」
HubSpot Japan「日本のBtoB購買に関する意識・実態調査2026」
株式会社Piftee「BtoB発注先選定におけるAI検索活用の実態調査2026」

市川厚

WRITTEN BY