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先日、ある報道動画を見ていて目が離せなくなった。札幌のスターバックスで、70代の男性がレジに立っている。名札には本名ではなく、現役時代のコールサイン(タックネーム)。航空自衛隊の元パイロットで、約38年間F-15に乗り、55歳で定年を迎えた人だ。
コックピットで高度計や速度計、敵機との距離を頭に入れていた感覚を、いまは行列の並び方を見ながら「あの方はフラペチーノを知っているだろうか」と考えることに使っている。働く理由を聞かれた答えは「生活費の確保」。きれいごとを言わないところがいい。ただ、そのあとに続けた言葉が忘れられない。スターバックスを好きになって、また来たいと思ってもらえるところに貢献できればいい、と。
生活のために働く人が、同時に「貢献したい」と口にする。この二つは矛盾しない。そして企業のパーパスが額縁の言葉で終わってしまう理由も、ここにあると僕は考えている。パーパスは、現場の「役に立った」という実感の延長線上にしか立ち上がらない。
総務省統計局の統計トピックスNo.149(2026年9月公表)によると、2025年の65歳以上の就業者数は943万人で、22年連続の増加、過去最多を更新した。就業者全体に占める割合は13.8%、およそ7人に1人だ。年齢階級別の就業率も、65〜69歳が54.5%、70〜74歳が36.2%、75歳以上が12.6%と、いずれも過去最高になっている。
動画には札幌の食堂も出てきた。スタッフは全員60歳以上で、最高齢は84歳。運営する側は「年齢だけで区切られがちな社会」への違和感を語っていた。働く理由として収入が大きいのは事実だと思う。動画の中でも、国の調査では収入を理由に挙げる人が半数以上だと紹介されていた。
でも僕が気になるのは、収入のために始めた仕事を、なぜ続けられる人と続けられない人がいるのか、という点だ。職場の形が変わっても人は働く。それなら企業側が問われているのは、報酬の額より先に「この場所で働くと、誰の役に立てるのか」を示せているかどうかになる。

アドラー心理学には「共同体感覚」という考え方がある。人は自分が誰かの役に立っているという感覚、つまり貢献感を持てて初めて、自分に価値があると思えるし、人生の課題に向き合う勇気も出る。アドラーはそう考えた。幸福の条件に貢献感を置いたわけだ。
ここで、仕事に対する僕の定義を置いておく。仕事とは、誰かの役に立った実感を、繰り返し手に入れるための場である。人が働く一次的な理由は生活のためでも、本質はそこにあると思っている。だから僕は、仕事が人生の大半を占めてもいいと考えてきた。ただし、社員にも同じ比重を望むなら、会社の側がそれに値する魅力を持っていなければならない。うちはまだその途上だ。
ところで、誰かの役に立ちたいという気持ちは人間だけのものだろうか。アリや犬、チンパンジーのような社会性のある動物にも、仲間に危険を知らせたり、傷ついた仲間を助けたりする行動は見られる。ただ、それが「役に立ちたい」という思いから出ているのか、生き延びるための仕組みなのかは、僕には断定できない。
はっきり言えるのは、人間は役に立てたときの喜びを言葉にして、他人と共有し、旗として掲げられるということだ。うちの理念「笑顔創造」も、お客様、パートナー、一緒に働く仲間の笑顔をつくるという、誰のための役立ちなのかを言葉にしたものだ。

一般的には、パーパスブランディングは「自社の存在意義を対外に発信し、社会の共感を集めて企業価値を高める戦略」と説明される。間違ってはいない。ただ、この定義だと「発信」から入りたくなる。僕の定義はこうだ。パーパスブランディングとは、現場の一人ひとりが感じた「役に立った」を、会社の約束として束ねる作業である。
発信は最後でいい。先に束ねる材料がなければ、どんなに整った文章も外から借りてきた言葉になる。
日本企業の事例を見ても、入口は違う。ソニーは2019年に「クリエイティビティとテクノロジーの力で、世界を感動で満たす」というパーパスを掲げ、経営方針の中心に据えて社内に浸透させてきた。上から旗を立てて、全員で共有するタイプだ。一方、富士通は2020年にパーパスを発表したあと、個人のパーパスを言語化する対話プログラム「Purpose Carving」を全社に広げている。こちらは個人の側から掘り起こす。
どちらが正解という話ではない。ただ、中小企業やBtoB企業で僕が勧めるのは、後者に近い進め方だ。社員が数十人規模なら、全員の「役に立った」を聞いて回れる。この規模の小ささは、パーパスづくりではむしろ武器になる。
具体的にやることは地味だ。社員に「最近、誰の役に立ったと感じた?」と聞いてみる。それだけでいい。お客様から言われた一言でも、同僚への小さな手助けでも構わない。
答えがすらすら出てくる会社は、集めた言葉の中に共通する「誰の、どんな笑顔をつくっているか」が必ず見えてくる。そこからパーパスの文言を整えればいい。逆に、答えが出ない会社は、文言を磨く前にやることがある。役に立った実感が本人に届く経路を直すことだ。お客様の反応が現場に戻っていない、評価が数字だけで決まっている、といった構造の問題が隠れていることが多い。
そしてできあがったパーパスは、飾るためではなく使うためにある。数字だけでは決められない場面で、判断の拠り所として実際に引っ張り出す。使われないパーパスは、社員から見れば「また上が何か言っている」で終わる。
元パイロットは、高度計の代わりに行列を見ながら、今日もレジに立っている。生活費のためと言い切りながら、スターバックスをまた来たい場所にしたいと願う。その二つが同じ人の中に共存していることが、仕事の本質を一番よく表していると思う。
パーパスは、会議室でゼロから生み出すものではない。誰かの役に立てた小さな手触りを、会社の約束にまで育てる作業だ。自社の「役に立った」をどう言葉とデザインに落とすか、一緒に掘ってみたいと思ってもらえたら、僕たちはいつでも話を聞く。
A. 僕の整理では、パーパスは「なぜこの会社が世の中にあるのか」、ビジョンは「その先にどんな景色を見たいか」です。順番はパーパスが先で、ビジョンはその延長に置くと迷いません。
A. 響きます。収入のために働くことと、誰かの役に立ちたいと思うことは両立します。大事なのは、会社が掲げる言葉と、本人が現場で感じる「役に立った」がつながっているかどうかです。
A. 規模は関係ありません。むしろ少人数のほうが、全員の「役に立った」を直接聞けるぶん、実感のこもったパーパスを作りやすいです。
参考・引用元
総務省統計局「統計からみた我が国の高齢者」(統計トピックスNo.149)
カオナビ人事用語集「パーパスブランディングとは」
参考動画(YouTube)