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長澤功雄
代表取締役社長
26歳、共同出資4名でライオンハートを創業。お客様も仕事も資金もない「0」からのスタートを経て、創業10年の節目に社長就任。「10年10倍」のビジョンを掲げ、LHメソッド・理念経営・顧客体験という3つの独自性を強みに、お客様企業の「革新」と「成長」に伴走している。人生理念は「今ここに、真心を尽くす」。
「長澤さん、これからは営業って要らなくなるんですかね」
先日お会いした経営者の方に、半分冗談、半分本気という顔でそう聞かれました。生成AIで下調べが済み、比較サイトで相場もわかる。わざわざ営業担当者に時間を取られるくらいなら、自分で調べたほうが早い。そう感じている方は、決して少数派ではないと思います。
私は名古屋のブランディングエージェンシーで、営業とクライアントリレーションを担当しています。初めましてのお客様とも、長くお付き合いいただいているお客様とも、毎日どこかでお会いしています。その立場から申し上げると、この問いには、はっきりと答えがあります。
営業という「情報を運ぶ仕事」は、確かに要らなくなりつつあります。けれど「確信を届ける仕事」は、むしろ今のほうが求められています。そして、そこにこそBtoBの競合差別化の、いちばん現実的な糸口があると私は考えています。
数字を見るかぎり、その経営者の方の実感は正しいです。
ワンマーケティング株式会社が2025年9月30日〜10月1日に実施した「BtoB購買プロセス白書2025」(全国の経営者・役員・購買/契約担当者600名対象)によると、営業担当者との初回面談の時点で購買先が「ほぼ決まっている」と答えた人が29%、「いくつかの候補に絞り込まれている」と答えた人が56%。合わせて85%が、営業に会う前に候補を絞り終えていました。
海外でも傾向は同じです。Gartnerが2026年3月に公表した調査(2025年8〜9月実施・BtoB購買者646名対象)では、67%が「営業担当者のいない購買体験」を好むと回答し、45%が直近の購買で生成AIを使ったと答えています。
つまり私たち営業は、もう「最初に会う人」ではありません。テーブルにつく頃には、相手はこちらの会社をひととおり調べ終え、競合との比較も済ませている。かつて営業の価値の大半を占めていた「情報を渡す」という役割は、ほぼ失われたと考えたほうがいい。私はそう受け止めています。
寂しい話に聞こえるかもしれません。ただ、私はこの変化をわりと歓迎しています。情報で勝負しなくてよくなった分、本当に勝負すべき場所が、はっきり見えるようになったからです。
同じ調査の続きに、私が最も注目している数字があります。
先ほどの白書では、提案評価や購買先選定といった購買プロセスの後半になると、「営業による説明・提案」が最も重視される情報源に変わります。しかも取引金額が大きいほど、その傾向は強くなる。関与する人数は300万円未満の案件で平均5.6人、高価格帯では18.3人にまで増え、高価格帯の54%は検討から契約まで半年以上かかっています。関係者が増え、時間も長くかかる。その混み合った意思決定の最後を支えているのが、人だったということです。
Gartnerの調査も同じ方向を指しています。2026年5月に公表された結果では、69%の購買者が「AIが生成した情報を営業担当者に確認したい」と答えました。買い手は平均7つの情報源を使い分けており、そのなかで営業担当者は「課題を整理する段階」「社内で合意を取りつける段階」「最終決定の段階」において、最も重要な情報源であり続けています。
情報は自分で集められる。けれど、その情報が自分の会社にとって正しいのかどうかは、自分だけでは確かめられない。だから最後に人に聞く。
このデータを読んだとき、私は少し姿勢を正しました。営業に残された仕事は「教えること」ではなく、「相手が自分の判断に確信を持てるようにすること」なのだと、はっきり言われた気がしたからです。

では、その確信はどこから生まれるのか。
先ほどのGartnerの調査には、営業をしている人間としては少し耳の痛い数字もあります。「誤解を招く情報に出会いやすいのはどちらか」という問いに対し、生成AIと答えた人が51%、営業担当者と答えた人が49%。ほぼ互角です。つまり買い手から見れば、私たちはAIと同じくらいには疑われている。肩書きや会社名だけでは、信頼を前借りすることはできません。
一方で、白書のほうでは、提案を評価するときに重視される項目の上位は「品質」72%、「信頼性」68%、「コスト」67%でした。価格は三番目です。意思決定者層に絞ると、導入企業の満足度やサポート品質といった「導入後の安心感」がより重く見られていました。
私はここに、BtoBの競合差別化の本質があると思っています。商品の性能や価格で差をつけるのは、正直もう相当に難しい。けれど「この人は、うちの事情をどこまで分かってくれているか」という理解の深さは、いまだに驚くほど差がつきます。そしてその差は、お客様には一瞬で伝わります。
ライオンハートには、LHメソッドという型、フレームワークがあります。柱は二つです。ひとつは、お客様が抱える課題を客観的に取り出す「ヒアリング」。もうひとつは、その課題に至った感情や背景、社内の経緯を掴む「リーディング」です。
ヒアリングは、丁寧にやればある程度は誰にでもできます。差がつくのはリーディングのほうです。「なぜこの方は、いまこのタイミングでこれをやろうとしているのか」「社内の誰が、何を心配しているのか」。ここを読み違えたまま出した提案は、内容がどれだけ正しくても通りません。私は何度もそれで痛い目を見てきました。

私たちの営業チームには、「情ではじまり、理でおさめる」という考えを持っています。スローガンがあります。
この言葉は、順番にこそ意味があります。まず情から入る。相手の感情や背景を受け止め、同じ側に立つ。そのうえで、最後は理でおさめる。数字と根拠で、その場にいない人が見ても納得できる形に整える。
逆にすると、まず通りません。初回から精緻な提案書を持ち込んで、論理で押し切ろうとする。若い頃の私が、まさにそれでした。ロジックは組み上がっているのに、相手の表情がだんだん硬くなっていく。あとから振り返れば、私は相手の話を聞いていたのではなく、自分が話す順番を待っていただけでした。あれは独りよがりだったと、いまでも思います。
反対に、これまででいちばん嬉しかったのは、あるお客様から「社内でいちばん大事なプロジェクトを、長澤さんにお任せしたい」と言っていただいたときです。特別な提案をしたわけではありません。その方が本当に困っていたのは表向きの課題ではなく、社内で理解が得られないことだと途中で分かったので、そこを一緒に片づけただけでした。
もちろん、情だけでも足りません。仲は良いのに決裁が下りない、という関係を私はいくつも見てきました。関与者が18人になるような案件では、私と相性が良いことに、実はほとんど意味がありません。会ったこともない役員の方が、資料だけを見て納得できるかどうか。そこまで面倒を見て、はじめて理でおさめたと言えます。
情ではじまり、理でおさめる。順番を守るだけで、提案の通り方は本当に変わります。
相手を読むには、まずこちらが読まれる側に回る必要があります。
私は京都のお寺で育ちました。商談の場でこの話をすると、たいてい少し場が和みます。ただ、私が自己開示を大事にしているのは、話のつかみが欲しいからではありません。人は、自分を見せない相手には、自分を見せてくれないからです。
BtoBの商談は、長くても一回一時間ほどです。その短い時間で、相手が本音を話してもいいと思える場をつくらなければならない。そのためには、こちらが先に手の内を開くしかありません。うまくいかなかった案件の話も、まだ答えが出ていない悩みも、隠さずに出す。すると不思議なもので、相手も「実はうちも」と話しはじめてくださいます。
私が自分の持ち味だと思っているのは、実直さと傾聴力の二つです。人の話を最後まで聞く。相手の気持ちを大切にする。誰に対しても態度を変えない。今あることを大切にする。この辺りは、お寺という環境で自然と身についたもので、特別な才能ではありません。ただ、学んで身につけたものではないぶん、私にとっては一番ぶれない部分です。
強みというのは、たいてい自分にとって当たり前すぎて、価値に見えないものの中にあります。営業の差別化を考えるとき、他社の真似から入る方は多いのですが、私はまず自分の中を探すほうをお勧めします。真似できるものは、いずれ真似されます。その人の来歴からしか出てこないものだけが、最後まで残ります。
先ほどのGartnerの調査には、こんな結果もあります。自分の意思決定に確信を持てた買い手は、確信が持てなかった買い手に比べて、「質の高い取引ができた」と回答する割合が約2倍でした。これはあくまで両者に関連が見られたという話であって、確信さえ持たせれば良い取引になる、という単純なものではありません。それでも、買い手が確信を持てるかどうかと、取引の満足度が深く結びついていることは確かだと思います。
私たち営業の仕事は、そこにあります。情報を渡すことではなく、相手が自分の判断に確信を持てるところまで、一緒に歩くこと。そのために必要なのは、大がかりな仕掛けではありません。相手の背景を読むこと。順番を守ること。自分から先に開くこと。地味な話ばかりですが、私はこれ以上に効くBtoBの差別化の方法を、いまのところ知りません。
もし、いま自社の差別化に手詰まりを感じておられるなら、商品の機能を並べ直す前に、お客様のことをどれだけ理解できているかを一度点検してみてください。その差は、思っているよりずっと大きいはずです。
そして、その点検を自分たちだけでやるのは、正直しんどいものです。自社のことは、自社がいちばん見えません。もしよろしければ、その話を私たちに聞かせてください。まだ言葉になっていない可能性を一緒に探すところから、始められればと思っています。
参考・引用元
syncAD|企業の購買行動、営業面談前に85%が候補を選定。ワンマーケティングが「BtoB購買プロセス白書2025」を発表
ワンマーケティング株式会社|BtoB購買プロセス白書2025 エグゼクティブサマリ
Gartner|Gartner Sales Survey Finds 67% of B2B Buyers Prefer a Rep-Free Experience
Gartner|Gartner Survey Finds 69% of B2B Buyers Turn to Sales Reps to Validate AI-Generated Insights