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AIが作った文章や画像を、人間が直す。そんな仕事の依頼がフリーランスの現場で急増している、というニュースを見て、手が止まった。
最初に浮かんだのは「ああ、うちの業界の話だ」という感覚だった。クリエイターの仕事が「つくる」から「直す」へ寄っていく。しかも、その「直す」が驚くほど安く見積もられている。
先に結論を言う。後始末の仕事が割に合わないのは、AIの精度が低いからじゃない。直す前に「何が正解か」を誰も決めていないからだ。後始末の値段は、最初にレビューの基準を置いたかどうかで決まる。僕はそう考えている。
2026年9月、Search Engine Journalが英ガーディアンの報道を整理して伝えた内容によると、フリーランス仲介のFreelancer.comで「AIの誤りを直す」「AIのハルシネーションを直す」といったタグが付いた募集は、2025年8月から2026年6月にかけて87%増え、世界で10,760件に達した。ジャンルで最も多いのはグラフィックデザインで、動画編集、校正、ライティングが続く。
同じ記事では、Upworkで「AIの出力を直す」案件が前年比70%増、Fiverrでは「AI cleanup」関連の検索が2023年から2026年で20倍以上になったとも紹介されている。ただしこの3つは測っているものが違う。足し算して「全体が何倍」と言える数字ではない。それでも、向いている方向は同じだ。
現場の声も具体的だった。フロリダのイラストレーターは、AIで作られた児童書の挿絵13〜15枚を直す仕事に約500ドルを提示された。1枚15分という見立てだったらしい。彼の最低時給は65ドルで、断ったという。別のマルチメディア編集者は、AI生成のタロットカード約100枚を、1枚あたり2〜3時間かけてPhotoshopで直した。直しようがなく、「このファイルは救えません」と依頼主に伝えたこともあるそうだ。

1枚15分で直るという見積もりには、「できあがったものはほぼ合っていて、悪いところだけ軽く直せばいい」という前提がある。でも直す側は、まず何が間違っているのかを見つけるところから始めなければいけない。指が6本あるような分かりやすいミスなら、確かに15分で済む。
厄介なのは「なんか違う」だ。ブランドの空気に合っていない。伝えたい相手に刺さらない。目的に対して何かがずれている。こういうズレは、どこを直せば解決するのかを決める基準がないと、直しようがない。基準がなければ、直すたびに「やっぱりこっち」が始まり、気づけば最初から作り直したほうが早かったことになる。
だから僕は、後始末をこう定義している。後始末とは、最初に置かれなかった判断の請求書である。AIが速く作れるようになった分、「何を作るべきか」という判断が後ろに回り、その支払いが直す人に回ってくる。依頼主は安く済ませたつもりで、実は一番高い工程を、一番安い価格で外に出しているわけだ。

ライオンハートには、お客様と「同じ眼鏡をかける」という言い方がある。仕事の最初に、お客様の理想の状態と現在地を聞き、そのあいだにあるギャップを一緒に言葉にする。ここで課題と目的が決まり、要件が決まる。そのうえで、出てきたアウトプットを「その目的と要件を満たしているか」だけで評価する。これがLHメソッドの根っこにある進め方だ。
ポイントは、好き嫌いを評価に入れないこと。たとえば四十代の経営者が「このデザインはあまり好きじゃない」と言ったとする。でも、そのプロジェクトの相手が新卒の学生なら、その感想は判断材料にならない。自分が対象者でないなら、自分の感情は関係ない。レビューとは、好き嫌いを外して目的に照らすことだと僕は思っている。
この眼鏡は、デザイナーにもエンジニアにも共有する。そしてAIが作ったものにも、人が作ったものにも、同じ眼鏡で向き合う。作り手が誰であっても、良いか悪いかを判断する行為は変わらないからだ。AIで作ったかっこいいデザインも、よくできたプログラムも、一つずつレビューを通さずにお客様へ出せば「なんか違う」は起きる。うちの現場では、それが比較的少ないと感じている。これは数字で検証した話ではなく、日々の体感だ。ただ理由は、お客様と同じ基準でレビューしているから、という以外に思いつかない。
AIの普及で、デザインや文章の「最低品質」はぐっと底上げされた。情報を集めてまとめる、体裁を整える、といった、かつては専門性として値がついていた作業ほど、価値が薄れていく。逆に、型を破る表現や、現場の空気を読んで質問を思いつく感性の価値は上がっていると感じる。
これは他人事じゃない。僕自身、文章の草案をAIと壁打ちしながら作ることがある。ヒアリングから原稿まで全部AIがやれてしまうなら、ライターという仕事は要らなくなる。同じことが、デザイン、ディレクション、企画、ブランディングにも起こりうる。後始末の依頼が増えているのは、その入り口に立った人たちが先に感じている痛みなのだと思う。
この仕事が長く続くかどうかは、正直まだ分からない。記事に登場するオーストラリアの書き手は、5〜10年のうちに、この種の仕事の多くは減ると見ている。一方で、先ほどのイラストレーターは2025年の終わりごろから後始末の依頼を受けるのをやめ、のちに結果に満足できなかった依頼主から、手描きの新規制作の依頼で呼び戻されたという。
仕事は、直す人のところではなく、判断を持っている人のところに戻ってくる。僕はそう感じる。
BtoBのマーケティングやブランドの担当者がAIで叩き台を作り、仕上げを外に頼む場面は、これから確実に増える。そのとき、修正を頼む前にやっておきたいことが3つある。
3つとも、AIを使うかどうかとは関係がない。人が作っていた時代から、うまくいく仕事の入り口はずっと同じだった。AIは、その入り口を飛ばしたときの代償を、目に見える形で請求するようになっただけだ。
「AIの後始末」の依頼が増えているのは、つくる速さに判断が追いついていないからだ。判断を前に置ける会社は、直す仕事そのものが減る。置けない会社は、安く見積もった請求書を、あとからまとめて払うことになる。
もし社内でAIの出力が「なんか違う」のまま止まっているなら、一度、目的と評価基準を一緒に言葉にするところから話してみませんか。僕らが毎日やっているのは、その「眼鏡」を合わせる作業です。
A. 分かりません。モデルの精度が上がれば減ると見る人もいます。僕は、新人に出している簡単なタスクがAIに回ることで、OJTの機会が無くなってしまう。そのため、専門家の育成が難しい。後始末ができる人材が減ってくるのでは?!という懸念がある。
A. おすすめしません。レビューを通さずに出すなら、そこに人がいる意味がなくなります。AIが悪いのではなく、誰も関心を向けていない状態が問題です。
参考・引用元
Search Engine Journal「AI slop cleanup job listings up 87%」(2026年9月3日)
Self Employed「AI Cleanup Work Booms As Freelance Fix-It Listings Jump 87%」(2026年9月9日)