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2026.10.06

白タクが先に走る国で、ルールを待つ日本。海外進出の失敗は「整ってから動く」ところで決まる

白タクが先に走る国で、ルールを待つ日本。海外進出の失敗は「整ってから動く」ところで決まる

モンゴルのウランバートルでは、道を走る車に手を挙げて、止まってくれたドライバーと値段を交渉して乗る。それが普通のタクシーの使い方だった。UberやGrabのような配車アプリが定着している国でも、その隣には、ローカルの「白タク」が当たり前の顔をして走っている。世界を旅していると、そういう景色にあちこちで出会う。

10年以上前、日本にUberが最初に上陸したとき、迎えに来たのは黒塗りのLEXUSだった。運転手さんがドアを開けてくれる。面白そうだったので使ってみたけれど、周りから見たら「運転手付きの車が迎えに来た人」に映っただろう。それはそれで気分が良かった。

2年ほど前に箱根へ行ったときは、海外からの観光客の多さに驚いた。同時に、タクシーの少なさにも驚いた。明らかに足りていない。その一方で、中国の方が自分たちで運用しているらしい白タクは、あちこちで見かけた。美術館の駐車場では、バックしてきた白タクと僕の前の車がぶつかっていた。いい迷惑だ。

日本で白タクは違法だし、事故が起きたときの補償や安全面を考えれば、僕はそれを肯定したいわけじゃない。ただ、見落としたくないことがある。足りないところには、法整備が追いつくかどうかと関係なく、誰かが埋めに来るという事実だ。そして同じ構図が、世界の別の場所では、もっと大きな規模で起きている。

先に言い切ってしまうと、海外進出の失敗の多くは、現地に出てからではなく、「ルールや条件が整うのを待っている間」に決まっていると僕は考えている。

白タクは「違法な需要」ではなく「足りていない供給」のサインだ

箱根でタクシーを待つ観光客を見たとき、僕の頭に浮かんだのは「需要調査」という言葉だった。アンケートを取らなくても、答えはもう道路の上を走っている。

僕は需要を、こう捉えている。需要とは、制度の外側でも勝手に動き出してしまう力のことだ。許可が出たから生まれるものではなく、困っている人が確かにいるから、先に動き出す。白タクが示しているのは法律の抜け穴ではなく、供給が足りていないというサインだと思う。

日本の制度側も、手を打っていないわけではない。国土交通省が所管する「自家用車活用事業」、いわゆる日本版ライドシェアは、地域の一般ドライバーを活用しながら、タクシー事業者が運行を管理する枠組みになっている(国土交通省 関東運輸局の案内による)。安全を守る設計としては筋が通っている。ただ、それが現場の「足りない」にどれだけ速く届くのかは、また別の話だ。

世界は、制度の議論と同時に走り出している

世界は、制度の議論と同時に走り出している

自動運転タクシーを見ると、この速度差がもっとはっきりする。報道によれば、Waymoは2026年4月時点で、米国の10都市で週あたり50万件の有償乗車をこなしている。2年前は週5万件だったというから、10倍だ。

日本が止まっていたわけではない。2026年9月15日、GO、Waymo、日本交通が、東京での自動運転タクシー商用化に向けた戦略的パートナーシップに合意したと発表した。2027年中に、国内初となるレベル4の完全無人タクシーの運行を目指し、段階的に100台規模まで広げる計画だ。2025年から都内7区で公道での試験走行も続けてきたという。

日本交通とGOが、海外の最先端と組むと決めた判断は速いと思う。いい動きだと素直に思う。それでもなお、僕の中には「何周か遅れているな」という感覚が残る。理由は単純で、週50万件という実績の隣に並べられるものが、日本にはまだ「2027年中に100台規模を目指す」という計画だからだ。計画と実績は、並べると距離がある。

海外進出の失敗は「整ってから動く」ところで決まる

海外進出の失敗は「整ってから動く」ところで決まる

海外進出の失敗要因として、市場調査の不足、現地パートナー選び、法規制の読み違いといったものがよく挙がる。どれも本当だと思う。でも、僕が周りの会社を見ていて気になるのは、その手前だ。全部を整えてから出ようとして、整った頃には、同じ市場がもう誰かのものになっている。

準備とは、動きながら整えるための最小限の足場のことであって、動かないための理由ではない。ここを取り違えると、慎重さがそのまま遅さになる。

広告の仕事を四半世紀以上続けてきて、写植がデジタルに変わり、入稿がオンラインになり、クラウドへ移るのを見てきた。変化はいつも不可逆で、元には戻らなかった。AIがもたらす変化は、そのどれよりも速くて大きい。僕の感覚では、下りのエスカレーターを登っているようなものだ。ルールが整うのを待っている間も、エスカレーターは止まってくれない。

速く動くほど、ブランドの「軸」が要る

ただ、速く動けば何でもいいという話でもない。白タクの接触事故のように、先に走ると、あとで責任が問われる場面が必ず来る。ここがブランディングの出番だと僕は思っている。

海外展開でいえば、現地の打ち手は走りながら変えていい。変えてはいけないのは、「自分たちは何者として、その国の誰にとって特別な存在になるのか」という軸のほうだ。この軸が先に決まっていれば、速く動いても、国ごとにバラバラな会社にはならない。

ルールが整うのを待つか、軸を決めて動きながら整えるか。あなたの会社は、いま何を待っているだろう。それを一緒に言葉にするところからなら、いつでも付き合いたいと思っている。

よくある質問

Q. 白タクのようなグレーな動きを、企業が真似してもいいのでしょうか?

A. いいえ。法令の遵守は大前提で、僕が言いたいのは「違法に走れ」ではありません。ルールが整うのを待つ間にも、小さな実験や現地での観察、パートナー探しなど、合法的にできる検証は山ほどある、ということです。ちなみに、海外でビジネスを展開する際には、違法か合法かの調査はしっかりと行いましょう。当たり前ですが日本とは違う部分も多いです。

Q. 海外進出で、最初に決めておくべきことは何ですか?

A. 完璧な計画書より、「何者として現地に立つのか」という軸です。打ち手は現地で変えられますが、軸がないと国ごとに別の会社に見えてしまいます。なお、海外への事業展開については、外資100%では許可されない事業などもありますので、事前によく調べておきましょう。

Q. 日本は本当に「周回遅れ」なのでしょうか?

A. 領域によります。今回の自動運転タクシーは、僕がそう感じた領域のひとつにすぎません。日本にも速く動く会社はあります。大事なのは、自社が「待っている側」になっていないかを、自分で点検することだと思います。

参考・引用元
GO、Waymo、日本交通 自動運転タクシー商用化の実現に向けて合意(GO株式会社)
Waymo hits 500K weekly rides(The Rundown AI)
日本版ライドシェア(自家用車活用事業)(国土交通省 関東運輸局)

市川厚

WRITTEN BY